甘いお菓子



「みょうじって今日何の日か分かるか?」
「……2月の…いつだっけ?」
「は?」


すっかり昼夜が逆転してしまった私は夕方になっても寝ていたのだがコテージのドアが勢いよく叩かれて起こされる。ドアを開けると左右田君でビックリした。だってあまり話さない関係だったからだ。


「あー、今日バレンタインなんだ」
「すげーな。すっかり忘れてやがる…」
「こう何にもないと日付感覚忘れちゃって…んで、どうしたの?」
「あ、ああ……オメーって誰かにあげる予定あるの?」
「チョコを…?…いや、特には」
「あのさ…!義理でもいいからチョコください!」
「へ?」


唐突に尋ねられては頭を下げられて今度はこっちが素っ頓狂な声を出してしまう。
周りを見渡すと幸い誰もいなかったようだ。いくらいじられのツッコミ系とはいえ左右田君に頭を下げさせるのは気が引ける。
とりあえずコテージの中へ招き入れることにした。


「……まず、笑わないでくれるか?」
「…何のことやらって感じだし、誰にも言わないし笑わないよ。そういうのはしっかり守る方だから」
「流石真面目なみょうじ様!…んで話だけど…」


彼の話はこうだ。バレンタインということで男子達は誰が多くのチョコを貰えるかという賭けみたいなことをしていたみたい。
それで1番数が少なかったら罰ゲームという何とも非モテにはベリーハードなものであった。


「罰ゲームは1番多い人が決められるんだぜ!」
「何だか王様ゲームみたい…」
「因みに0個だと花村の特製ジュース入りチョコレートな」
「……それって大丈夫なやつ?」
「多分やべーやつ」
「んー…言っちゃアレだけど左右田君の貰ったチョコは…」
「0、……です」
「あ、はい」


図星だった。だって誰かが尋ねることなんて滅多に無い。誰か来るとしたらモノクマの全員集まれコールくらいだ。


「因みにみょうじから貰ったやつは1個につき2ポイントな」
「何で!?」
「なんかよォ、女子も女子で集まってチョコレート会というやつで男子の誰か1人には必ず渡すらしいんだ。義理もあるらしいけどよ。日向情報だからちゃーんとソースはあるぜ!」
「私呼ばれてないんだけど!?」
「オメー昼夜逆転してるから呼ばれてねーんだろ……こういう交流は大切にした方がいいぜ?」
「うう……肝に命じます…」


なんてことだ。まさかこんなことになってるなんて思わなかったし左右田君に慰められるとも思わなかった。まさかの私はチョコ1つにつき2ポイントだ。昼夜逆転して得られたものはポイント優遇だけである。


「ということでみょうじ様!板チョコでもいいんでください!」
「えー、あるかなぁ」


ゴソゴソと冷蔵庫の中やキッチンの中を探すと冷蔵庫に一応開封されてない板チョコが2枚あった。


「左右田君はソニアさん好きだったよね?」
「おう!ソニアさんは後であげますと言ってくれたぜ!ひゃっほーう!これって本命は後で…ってやつだよな!?」
「…そうかもね」


いやソニアさんきっと後でって言って渡さないタイプか明らかに分かる義理チョコだ。
そう言ったら怒られそうだし、何より最高潮の左右田君のテンションを下げたくなかった。


「…ケーキでいい?」
「え?」
「簡単なガトーショコラ的な…そういうのなら今からでも作れるよ」
「へ?いいの?マジで?」
「…いや、そっちが頼んだでしょ。後…左右田君が私ので良ければ」
「マジでみょうじサマサマだな!サンキューみょうじ!」


両手を合わせて頭を下げる姿に何だか申し訳ないようなもどかしい感覚を覚える。そんな拝まれる存在じゃないけど…。
ある程度の材料はあるから分量と時間を間違えなければ30分あれば作れるだろう。


「というよりそもそもバレンタインって頼む形じゃないけどね」
「いや、ホント…ごめんって」
「…でも花村君のチョコ食べて異変が起きたら大変だもんね」
「あいつ男もイケるって言っちゃったからなぁ…味はスゲー美味いんだろうけど」


小さく笑みをこぼしながらオーブンに入れる。これで後は待つだけだ。


「…お出かけチケット」
「ん?」
「これのお返しだよ。ホワイトデーあたりにお出かけチケットで何処か連れてってほしいなって」
「………」


左右田君は私を見て固まってしまう。
あれ、私変なこと言ったかな?


「え、どうしたの?」
「いや、それでオメーいいのか?」
「うん?いいよ」
「そ、そっか…考えとく。オメー結構大胆だな」
「そ、そう!?」
「フツー女の子同士とか行かねーの?」
「ああ、んー。誘ったことも誘われたことも無いから…で、真面目にモノクマの課題やってたら大量にお出かけチケット貰っちゃって」
「あー、モノクマに対しても真面目だもんな。もっと気軽でいいと思うぜ?」
「そうかな…そういえば初めて誘ったかも。左右田君に」
「お……」


オーブンで焼いている音だけコテージ内に響いてお互い黙ってしまった。
そして今言ったことを取り消したくなってしまう程に恥ずかしさが込み上げてくる。誰とも誘ったことのない自分が、あまり話したことのない男の子をお出かけに誘ったのだ。確かに左右田君視点からしたらかなり大胆な行動だ。


「あ、あの!別に変な意味じゃないからね!映画とか遊園地がリニューアルしたみたいだけど行ったことなくて気になって、教えてもらいたいなって!」
「…そ、そうだよな!ビックリさせるなよ!」


とりとめのない会話を続けるとチョコレートの甘い匂いが漂ってくる。オーブンの中を見ると美味しそうに焼きあがっていた。後はラッピングして渡せば大丈夫。



「どうぞ」
「サンキュー!やっぱりオメーは優しいな!」
「そうかな?」
「そうそう!ホワイトデーは何処か連れてってやるから!」
「うん、ありがとう。でも予定被っちゃったらそっち優先してていいから」
「あのなぁ…約束は守るからよ、そんなこと言うなよ」
「あ、ごめん…」
「サンキュ。助かったわ」
「うん、またねー」


そう別れを告げて残りのガトーショコラを食べる。我ながら美味しく出来たものだ。そう感心しつつまた眠りについた。



「お、みょうじ。…この間はサンキュ。めっちゃ美味かった」
「ありがとう、そう言ってくれて嬉しいな」
「それにオメーのやつと知ってみんな驚いてたぜ!あのとき少し嬉しかった」
「ほ、本当に…?……そ、そう!ソニアさんからは…?」
「……………」
「え、結局貰えてないの?」
「おう…本当にオメーから貰っといて良かったぜ。あのジュース見るだけでもおぞましかったぞ」
「み、見たくない…」


バレンタインが終わった後に左右田君から話しかけられたので砂浜を歩きながらそんな話をする。
どうやら左右田君が貰えたのは私があげたものだけだったようでジュースと罰ゲームは回避したものの、かなり凹んでいた。


「…元気出して?」
「だーーってよぉ………!悲しくなるぜ…」
「……大丈夫」
「その大丈夫はどこからだっての…」


はぁと溜息をつく彼。
見てるだけで哀愁漂う背中だと思いつつ歩き続ける。


「…んー、私がいるから?」
「は?」
「冗談だよ」
「…そ、そうか。オメーって冗談かどうかよく分かんねーこと言うな」
「元気出して欲しいなって。これからも何かあったら相談はしていいから」
「おー、みょうじってホントいい奴だな」
「左右田君、放っておけないから」
「……それってどういう意味だ?」

「……んー、そのままの意味」
「なっ、詳しく教えろよみょうじ!」
「えへへ、内緒だよ」


適当なことを言って左右田君を何とかかわしてコテージに辿り着いた。
左右田君にあげた女の子は私だけというのが嬉しかったなんて誰にも言えなかったから。


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