ピエリスの花 (前編)



※左右田が嫌われている
※何でもありな人向け


以前は修学旅行という形で楽しんでいたんだ。途中でモノクマとかいう白黒の訳わからない奴に乱入されたがウサミが抑えつけて、平和な日々を過ごしていた。

それなのに。


その日は食堂で全員で朝食を食べようとしたときだ。その場の空気は非常に重たく居づらかった。


「さぁ、ぼくの特製モーニングでも食べてよ!」
「流石輝々ちゃんっすー!よだれが滝のように出ちゃうっすー!」
「さあ、食べましょうか」


みんなが和気あいあいと話している中で1人がその違和感に突っ込んだ。


「…あのさ、花村」


左右田君の一声で騒がしかった声が一変して黙り込み、私は思わず息を呑んだ。花村君は左右田君を睨みつけていつもの声のトーンではない低い声で話しかけた。


「……何?どうしたの?」
「い、いや、…オレの分は無いのか?」


左右田君がたじろぎながら答える。違和感の正体はコレだ。左右田君のだけ用意されてない。


「……忘れたよ」
「はぁっ!?」
「忘れたんだよっ!ごめんねっ!!」


温厚な花村君が怒りながら謝る声は恐ろしかった。左右田君も、七海さんも、辺古山さんも驚いている様子だ。そんな中冷静に声をあげるものもいた。


「…そっか、忘れたなら仕方ないよね!超高校級は人間だからミスはあるさ!」


狛枝君の明るい声に左右田君はツッコミをしようとしても出来なかった。


「そっすね!輝々ちゃんだって間違いはあるっす!」
「いつも朝食作ってくれるし、人数も多いから1人くらい忘れるよね」
「そうそう!なーんで左右田は怒ってんの?って感じー」


開いた口が塞がらなかった。
これはイジリとかいうレベルじゃない。虐めだ。みんながみんなして左右田君に攻撃をしているのだ。


「………坊ちゃん」
「どうした?ペコ」


目を伏せながら箸を置く辺古山さんに九頭龍君が心配そうに見つめる。修学旅行の最初辺りに2人は小さい頃から九頭龍組の主従関係にあるらしい。主従ではあるが仲良く話している姿をよく見る。


「……体調が悪くて食欲が無い。だから私の分を左右田に分けてやってくれ。それでいいだろう?」


辺古山さんの提案に心からガッツポーズを送りたかった。咄嗟に言える辺古山さんの格好良さに惚れてしまいそうなくらいだ。しかし九頭龍君の顔は曇り始め、険しい表情を浮かべた。


「駄目だ、それだけは許さねーぞ」
「えっ…坊ちゃん?」


辺古山さんの綺麗な赤い瞳が丸くなる。
辺古山さんの言葉が出る前に九頭龍君が続けた。


「ペコ。テメーには食欲がなくたって少しでも食べなきゃいけねーんだよ」
「そうだよ!折角花村クンが作ってくれたご飯を左右田クンにあげるなんて愚かな行為だよ!希望がこれぽっちも無いね!」
「なぁ、ペコ。俺の話ちゃんと聞いてくれるよな?」
「ぼ、坊ちゃん…」
「何も聞かなくても分かるよな?」


九頭龍君の視線は鋭く、視線だけで撃ち抜かれて殺されそうな勢いだ。それは小さい頃から知る辺古山さんでさえも危険だと察知したのか、はいと頷くしかなかった。

明らかにおかしい。昨日まで仲良かったはずなのに。
これはモノクマだ。今まで何回も私達の邪魔をしてきたモノクマが何かをしたに違いなかった。


「ねぇなまえちゃん、食べないの?」
「えっ!?」


突然小泉さんに声をかけられて冷や汗が流れる。


「クスクス、家畜以下のゴミがみょうじおねぇのご飯を狙ってるよ、きもーい」
「早く食べないとみょうじさん、元気が出ませんよぉ…」
「ならっオレがみょうじの分まで食っていいか?オレのだけじゃ腹が膨れねーんだよ!」
「やめい、終里。人の分まで食べるんじゃない」


……私に対してはいつも通りの反応だ。けど、左右田君に対しては酷い対応をしている。


「ご、ごめんね。食欲が出なくて…」
「……私も食欲が出なくなっちゃった」


私がそう苦笑いしながら受け流すと、七海さんも沈んだ表情で箸を置いた。


「……いけませんわ」


声のした方に振り向くとソニアさんが心配そうな表情を浮かべている。


「ソニアさん!オレのこと心配しているんですか?」


少しだけ目に光を宿す左右田君。ソニアさんも心配してくれるのならこの状況を打破出来そうだけど。

しかしそんな願いなんて叶うはずがなかった。


「はて?私が心配したのは食欲がないという辺古山さん、七海さん、みょうじさんのことです」
「………え?」
「やはりこのような食事をする場所にいてはいけない物が存在しているせいですわ。きっと3人は害されてしまったのでしょう、お可哀想に…」
「…あれ、…えっ、…ソニアさん?」
「お黙りなさい!その声で私の名を呼ぶなんて虫唾が走りますわ!…田中さん、助けてください!」


そうしてソニアさんは涙声になり近くにいた田中君に抱きついた。…第三者の私でさえ辛い状況なのにソニアさんが好きだった左右田君は酷いショックを受けているに違いなかった。


「おのれ…奴は人間の形をしているが実は邪悪な悪魔だったようだな!邪気を隠しきれずに3人の罪のない人間に害を及ぼすとはな…
フハハ!よかろう!この俺様が直々に悪魔退散の術を執行しよう!」
「田中、俺も手伝うよ。七海の元気のない顔なんて見たくもないからな」
「愚民が…どうせ愚民以下の奴に触れたくないのだろうに。ならばこの俺がみんなの代わりに導いてやる!」

「は、離せ十神!日向も止めてくれよっ!ソウルフレンドだろ!?」
「は?誰がだよ?魂も繋がってるなんて気持ち悪いなっ!」
「ひ、日向…?」
「朝食も食べ終わったことだし、早く行きましょう」
「そうっすねー!反抗的な人間にはお仕置きっすよ!」


左右田君は十神君に首元を掴まれながら連れられてしまった。
この場に残ったのは辺古山さんと七海さんだった。


「……おかしい。どうしてあんなことに?」


辺古山さんは頭を悩ませているようだ。


「…決まってるよ、モノクマの仕業だよ!ねぇ、モノクマ!」


私は考えを吐き出しながらモノクマの名を叫ぶ。
すると目の前にニュッと白黒のクマが出てきた。


「うぷぷ。みょうじさんに島の中心で愛を叫ばれちゃったね!」
「ねぇ、モノクマ。みんなに何かしたんでしょ!?」


モノクマの体を掴み前後に揺する。
モノクマは平然として私の方を見つめた。


「…うん、ボクはみんなの手助けをしただけ」
「…手助け、だと?」
「みーんなね、こんな常夏の島で平和に過ごしたから飽きが出てきちゃったの。平和な中でね…刺激を求めちゃうんだよ!例えばゲームではコロシアイとかバトルロワイヤルとか、そういうの人気なんだよ!

けどボクが実際にコロシアイの場にしてあげたというのにみんな怖気づいちゃってしないんだよ!だからボクは考えたの…コロシアイのルールを残してみんなが満足する刺激的なモノをね…そしたら思いついちゃった!人を傷つけてかつスリル的な方法を!」

「…それが…アレってこと?」

「そう!学校でよく見るイジメだよ!集団行動してるとあいつムカつくとかウザいとか思うでしょ?
そんなの口にも出さず行動もしない。だけど刺激的な毎日を送りたい…そんなワガママな欲望を増幅させただけ!
…そうなるとみんな人を虐めたくなる!その矛先が左右田クンに向かっただけだよ。
本当はここにいる3人もその欲望が潜んでいるけどオモテに出さないだけ。
辺古山さんなんて感情をコントロール出来るから今は自分の良心が勝っているだけ。七海さんとみょうじさんも同じだね。自分の欲望を抑えられるから今ここにいるんでしょ?それかボクが感情を増幅させられてないかもしれないけど。
他のみんななんてもう…スゴイよ!?今も左右田クンをあの手この手で痛めつけてるんだから!」

「……そんなこと考えないよっ!」
「…これはただのモノクマの洗脳だよ」
「それでどうすればみんなを止められるんだ?」
「辺古山さんの鋭い眼差しにみょうじさんの怯えた表情、七海さんの見下した顔…一斉に視線を浴びるボクって人気者だね…。
それじゃあ教えるね、コロシアイが起きたときだよ」
「コロシアイ…?」
「うん、コロシアイすればみんなを元に戻してあげる。あ、ウサミに頼んでも無駄だよ。ボクが縛りつけて閉じ込めちゃったから」


不快な笑い声をあげながらモノクマはその場を去る。
何も声が出なかった。頭が真っ白になる。


「何とか左右田くんを守ってみんなを説得するしかないよ。辺古山さん、みょうじさん、頑張ろう?」
「もちろん…と言いたいが九頭龍坊ちゃんになんて言われるか分からない。表ではあまり動けないが陰で協力しよう」
「うん、分かった…」


こうして私は辺古山さんと七海さんと協力することになった。
まずは連れ込まれた左右田君をコテージへ戻すことにした。

ホテルの旧館からぞろぞろとみんなが出てきて立ち止まる。全員が全員恐ろしいほどに笑顔だったのだ。

誰かが「楽しんできな」と言っていた気がするが無視して旧館に入り込む。


「左右田くっ……!?」
「…酷すぎる、早くコテージへ運ぼう」


そこには顔が腫れ、黄色いツナギは泥まみれで、手足が赤く血塗れになっている左右田君が横たわっていた。
変わり果てた姿に私達は躊躇したものの、コテージへ運んだ。


「まず清潔にしたいから服を脱がさないと…」
「ま、待ってくれ…着替えさせてくれないか?」
「…でも1人で大丈夫…?」
「ああ…ちと恥ずかしいからな」


最初は左右田君だけコテージ内へ入り、しばらくするといいぞという声が聞こえてきた。

彼は白いTシャツと短パン姿だったが肌の部分は血で染められ痛々しく、直視し続けられなかった。


「とりあえず、血を流さないとな」
「腫れたところも冷やさないと…みょうじさん、氷水とタオル用意できる?」
「うん、任せて!」


3人で左右田君を囲いながら手当をする。ツナギはマーケットから洗剤を大量に持ってきて手洗いでなるべく汚れを落とした。


「後、マーケットから食料も持ってきたよ。これで何か作ってくる!」


左右田君は朝食を食べていない。急いで簡単な物を作り、左右田君の元へ届ける。


「…左右田君持てる?」
「駄目だよみょうじさん、まだ怪我癒えてないんだから。こういうときは食べさせてあげなきゃ」
「な、七海っ…オメーなんてこと言うんだよ!」
「だが無理矢理動かしたら治りにくいぞ、左右田。今だけ我慢してくれ」
「そうだね、…隣座っていい?」
「お、おう……」


ソファの隣に座り、ある程度の量を掬って左右田君の口へ運ぶ。
同年代の男の子に食べさせるなんて初めてだからご飯を零さないように慎重に運ぶ。


「ごめんね。花村君より味は劣るけど…」
「ん、んなことねーよ!うめーって!」
「ほ、本当?ありがとう」


頬を染めて赤くなる左右田君に思わずこっちまで照れる。きっと左右田君も女の子にこうされたことなかったのかな。なんか辺古山さんと七海さんに温かい目で見られているようで恥ずかしかった。

ある程度朝食を済ませ、私達はモノクマの言葉を左右田君に伝えた。


「……マジかよ。みんなしてオレのことを…」
「うん、でも私達も左右田くんの協力するよ。流石にこれはみんなのやりすぎだから」
「ありがとうな…」


そのときドンドンと叩く音が聞こえる。辺古山さんが立ち上がり、扉へ向かった。


「ここは私が出よう。七海とみょうじはそこにいてくれ」


辺古山さんが扉を開けると男の驚いた声が聞こえてくる。来客の姿を見た辺古山さんも驚いた声色になった。


「坊ちゃん!?どうしてここに…?」
「そのままそっくりセリフを返す、何で左右田なんかのコテージにいやがる!?」


九頭龍君だ。その瞬間に背筋が凍りつく。


「坊ちゃん、まさかまた左右田を…」
「オイコラ左右田ァ!!ペコを連れ込んで何を…!?」


辺古山さんを押し切ってドカドカと入る九頭龍君は目を丸くしてまたはぁっ!?と驚いている。


「な、七海にみょうじ…?何でテメーらまで」
「……普通に手当てだよ?ねぇ、九頭龍くん、もうこんなことやめよう?」


九頭龍君に動じずに七海さんは九頭龍君に歩み寄って子供を宥めるかのような声で話しかける。

すごいなぁ…こんなこと極道相手に出来ないよ…。


「……チッ。今のところはそのままにしてやる。おいペコ!俺と行動しろ」
「…………は、はい」


チラッとこっちを見た辺古山さんは不安な顔を浮かべていたが七海さんは手を振って見送り、私はこくんと頷く。
さっきも言ってた通り、辺古山さんは自由に動けないから仕方ない。
辺古山さんは私達を見た後に九頭龍君の後を追って何処かへ行ってしまった。


「うーん、中々ハードモードだね…」
「…でも大丈夫だよ、みんないい子だから説得すれば…!」
「うん、そうだね。みょうじさん、頑張ろう」


そう七海さんと目を合わせる。隣で左右田君が申し訳なさそうな表情をこちらに向けていた。


「本当に、悪いな…」
「大丈夫だよ、みょうじさん。左右田くんをベッドまで運ぼう?」
「い、いやいや!それ位はちゃんとオレで!」
「駄目、みょうじさん」
「え、う、うん」


何だか七海さん、やけに私と左右田君を近づけさせようとするなぁなんて思いながらバタバタさせる左右田君を何とかベッドまで運んだ。


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