「石丸くーん、好き、大好きー」 「こ、こらっ、みょうじくん!公共の場でそんなこと言わないって約束したではないか!」 隣の席に座ってる石丸君に本音をぶつけまくると石丸君は顔を赤くしてあわあわと慌て始める。 私が石丸君のことが好きなのはクラスの子達だけでなく上の先輩にも知られている状態だ。 だが石丸君が交際は認めないと公言している以上こうしてからかいを含めた告白で石丸君に伝えている。 「えへへ、こうしないと変な女の子が石丸君を狙うもん」 「変な女の子ってなんだね!?それは君の方では……」 「私、変な子じゃないですー!」 「し、失礼!」 変な子だと思われていたんだ…ちょっとショック。今日明日はあまりちょっかいかけないようにしよう。 …なんて思う訳がない。 明日もちょっかいをかけるのだ。 「おはようっ!」 朝の挨拶に参加する姿は相変わらず真面目で熱血だ。 全くこの学生達ももっと挨拶すべきだ。こんなに素敵な人が挨拶しているのに返さないだなんて。 「石丸君!おはよ!」 「ああ、みょうじくん。おはよう」 ニコリといつも通りの笑顔を見せる石丸君に胸が熱くなる。朝からこんなに幸せになっていいのだろうか、いや、良いに決まってる。鼻歌まじりにクラスへ行くと友達から変人だ、と言われてしまった。流石に変な人と複数人に言われるのは凹んだ。 「みょうじくん、最近授業で寝なくなったな!」 ある休み時間に石丸君に話しかけられる。ふふんと鼻高々にしながら嬉々として話す。 「授業で寝てて石丸君に怒られるのも良いと思ったんだけど、やっぱり石丸君の笑顔が好きだし、褒められたいからずっと授業聞いていたよ」 「は、はぁ。そ、そうなのか?」 「うん!」 苦笑いを浮かべる石丸君も他の友達には見せない表情だ。隣の席にいるから私にしか石丸君の表情が見れないだろうし特権だと思う。1ヶ月後にある席替えなんてなくなってしまえ。 「つまり…君は君自身の為に勉強していないのか?」 「あ」 「だ、駄目だ!勉強は己自身が努力を重ねて知識を積み上げるんだぞ?」 「あ、あははー、それでもちゃんと知識はあるから!ね?」 「ほう?じゃあ今ここでテストしても答えられると?」 「か、簡単なものだったらいける!」 「じゃあ問題を出そうではないか」 石丸君が出した問題は難解だった。解けたのは精々1、2問くらいで、難解すぎて定期試験にも出なさそうな問題だ。 「いやみょうじくん!まだまだではないか!」 「難解すぎる!試験に出ないでしょそんな難しいの!」 「万が一出る場合あるだろう?」 「絶対に出ませんー!」 今度はしっかり自分の為に勉強したまえ、と肩を強く叩かれて立ち上がり、風紀委員会の会議とやらで行ってしまった。 なーんだか、寂しい。終始褒められたかったんだけど…まあ、私と話す時間長かったからいいかなぁとポジティブに捉えることにした。 次の定期試験で似たような問題を出されて内心驚くのはその試験日になってからである。 「お、みょうじくんではないか!試験お疲れ様だ!解けたかね?」 「う、うん。石丸君が出してくれた問題の応用だったから完璧だよ」 「それは良かった!」 クラスの日直日誌は書くの面倒臭いなぁなんて睨めっこしていると石丸君がガラッと扉を勢いよく開け、教室の中に入ってくる。 「すごいなぁ。石丸君は」 「な、何がすごいんだ?」 「んー、だって授業で習ったことをさ、その場で問題にして私に出したじゃん?あれ、頭の良い人しか出来ないから」 「そんなことないぞ!みょうじくんだってやれば出来る!」 「そうかなぁ。石丸君この後風紀委員の仕事あるの?」 「いや、今日は無いが見回りはしていた!ここが最後の見回り場所だな。…そうか君は日直だったな!さあ早く書き上げて放課後は真っ直ぐ自分の部屋に帰るのだ!」 「む、無茶な!何の変哲も無い試験の日にどんな感想書けと…」 「試験の日だからこそよく書けるのでは?」 石丸君は椅子を引いて隣の席に座る。突然隣に来たものだから考える集中力が切れてしまった。 「そうかぁ、感想、んー」 わざと声を出しながらシャーペンを走らせる。石丸君に見られてると思うとものすごく恥ずかしくなるし背筋がピンと伸びてしまう。 まぁ試験終わってみんなは解放されたような顔をしていた、みたいなことを書けばいいかなと思っていると何も持っていない方の手に温かい感触がした。 何事かと振り向くと石丸君だった。石丸君が私の手を握っていた。 「えっ!?」 「……あまり大きな声出さないでくれるか?」 「だ、だって…」 「…僕だって風紀が乱れることは絶対にしない。ただ君がしてほしいというから、そうしてやっただけのことだ」 「え、えっと、そんなこと…」 顔を見ると石丸君は私から目線を逸らした。あ、逃げたな。 「……そういうことにしておくね」 「うむ、後、誰にも言わないでくれ」 「もちろん、誰にも言いたくないもん。他の女子に言い寄られる石丸君見たくないし」 「な、何故君は変な女とか他の女子を目の敵のようにするのかね?」 「大好きだから、他の女子を目の敵にしちゃう。取られたくないし」 「他の女子と仲良くしてくれないか?」 「石丸君がそういうなら善処する」 「う、うむ。そうしてくれたまえ」 「石丸君、大好き」 「ありがとう、みょうじくん」 「むー、石丸君はどうなの?」 「学生は勉強が本業だ。その返事は卒業後に君に伝えよう」 「本当しっかりしすぎ…そこも惚れたんだけどね!」 机の下でお互い繋いだ手を見つからないように顔に出さないようにしていたけど、やっぱり隠しきれなかったようでニヤついてる…と引き気味に石丸君に言われてしまった。そっちだってりんごみたいな赤い顔していた癖に。 きっとこうやってくれるのは今だけだと思いながらわざとゆっくりめに日直日誌を書き続けた。 |