衝動



「…どうしても駄目、か?」


恐る恐る言葉に出す。本当はこんなことを言いたくなかったのだが彼女をこれ以上引き止める理由も無かった。


「…うん、私には好きな人いるから。石丸君の期待には応えられないよ…気持ちだけ受け取っておくね」


気持ちだけ。そんな気休めの言葉なんて要らない。欲しかったのは君の全てだった。


「…考え直してはくれないか?」
「え?」
「どうしてみょうじくんは天才を好む?努力している人間がそんなに苦手なのか?」
「え、ち、ちょっと…」


彼女は僕の狼狽した姿を見て非常に焦っている様子だがポツリと口に出した。


「恋、だからじゃないかな?」
「恋…?」
「うん。決して天才が好きだからとか努力家が嫌いとかじゃない。"その人"のことが好きだからだよ」
「……僕はこんなにも君を思っているのに。その人とやらよりは勝っていると思うが」
「うん、ありがとうね。でも…やっぱり私はその人のことが好き」


その柔らかい笑顔は胸を激しく苦しめた。

僕は勉強の他に君に振り向いてもらえるように努力をしたはずだ。君の好きな物や嫌いな物まで全て把握したのに。このような閉じ込められた状況で怯えていた君を僕は何度も励まし続けて、君は少しずつ元気になっていったのに。

何故君はそんな努力すらもしない天才と呼ばれた道化師に惹かれてしまうのか。努力が報われないなんてことがあってはならないのだ。それが社会でも勉強でも恋愛でもだ。
理性が残っていなかった。君が僕に背を向けた瞬間に部屋にあったダンベルで彼女に目掛けて振り上げた。


「…ッッ!いしま…」


その瞬間は嫌でも僕の脳内に刷り込まれていく。
彼女の美しい顔は痛みで歪み、僕の名前を呼んでそのまま目を閉じた。
君の苦しむ姿が僕にとっては美しく見えた。


「はは、…ならこうして君を手に入れればいい。みょうじくん、なんて君は素敵なんだ」


どうせ見つかるのは時間の問題。発見されるまで僕は君をずっと抱きしめ続けよう。捜査時間なんて無駄な時間は要らない。裁判で僕が処刑されて死んだ後も君に会いにいける。これ以上幸せなことがあるだろうか。横たわる彼女の消えゆく温もりを感じながら僕は彼女に愛の言葉を囁いた。


「まーったく!石丸クンったら逃げないんだもん!卒業する意思全く無いよね!?全く学級裁判開く意味ナッシング!」


モノクマが僕を睨みつける。ここにいる全員が驚愕の表情を浮かべながら僕を見つめる。無理もない。風紀を守る為に動いていた人物がクロだったから。


「…何で、」


裁判を終えた後に僕を掴みかかる男は普段見せない涙を流して僕を問い詰めた。


「どうして…ッ、なまえを殺したんだッ!?」


裁判中に知ったのだがどうやら目の前で怒りを露わにするこの男こそが僕のみょうじくんに手を出した人物だと分かった。ここから脱出出来たら恋人関係になるという約束までしたらしい。
実に腹立たしかった。そんな約束だけで彼女を縛りつけていたのかと。


「…みょうじくんを僕のものにしたかった。ただそれだけだよ」
「はぁっ…!?それだけで、なまえを…!」
「モノクマ、さっさと終わらせてくれないか?僕は早くみょうじくんに会いに行きたいのにこれ以上は時間の無駄だ」
「うぷぷっ!風紀委員も所詮思春期の男子高校生なんだねー!周りのオマエラも石丸クンに絶望してることだしそれじゃあオシオキターイム!」


そしてどこからか出したハンマーでオシオキ開始のボタンを押す。
ああ、やっと会えるよ。みょうじくん。
君に会えたら僕は何について話せばいいのだろう。とても楽しみでならないんだ!


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