初恋の味



誰かに会いたいって思うのはいつぶりであろうか。
教室ならいつも通りに登校すればみんなに会える。けどそんなのじゃなくて私が自らの為に会いたいと思ったことはなかった。

ただ少しだけ気になったのだ。
珍しくも風邪をひいてしまい、今日の授業は休みにして寄宿舎で休むことになった。同じ日直である石丸君に悪いことをしたなぁって思いながらも頭痛が酷い為寝ることにした。



コンコンとノックの音で目を開いた。はい、と返事をする前に扉がガチャリと開いた。


「石丸君…」


オレンジ色に染まる夕焼けが私と石丸君を照らす。石丸君は購買部の袋を持ちながら部屋の中にスタスタと入っていく。


「……お見舞いに来た。気分はどうかね」
「…ごめんね、日直を任せちゃって」
「気にしないでくれ。1人でも出来るような仕事量だったからな」


彼は器用に微笑みながらベッドの近くに椅子を移動させ、そこに腰かけた。


「保健委員に風邪の治し方を聞いてな、薬も大切だが温かい飲み物で体を温めることも大切だと聞いた。だからお茶とか買ってきた!」


さあ、と袋を手渡され中身を確認するとお茶に加えてのど飴やレモンの蜂蜜漬けやらと風邪に効くものばかり入っていた。


「ありがとう、こんなに沢山…。しかもテスト期間中なのに時間作ってくれて」
「何を言うのだ、僕は常に予習復習しているが君は勉強出来ない状態だ。寧ろ遅れをとっているのは君の方だぞ。早く治してテストに備えないと大変だぞ!」
「うん、ありがとう。早く治さなきゃね」


いかにも石丸君らしい言葉だ。
しばらく今日の出来事について雑談をしていると夕日も沈みかけて部屋の中の灯りが暗くなる。


「僕はそろそろお暇させてもらおうか」
「うん、わざわざ時間割いてもらってありがとね」


まぁ、夜になったら帰っちゃうよね。石丸君は真面目だから。だけども、話し相手としてもっといてほしかったな。


「…」
「どうしたみょうじくん。どこが痛いのかね?」
「ううん、…そうじゃなくて」


喉まで出かかっているけど上手く言葉が出てこない。クラスメイトとは普通に話せるのに今の石丸くんの前では上手く話せなかった。きっと緊張しているんだと思う。


「明日、体調が良くなったら勉強教えてほしいな」
「なんだ、そんなことか。はは、ノートも完璧にしているからいつでも見ていいぞ!」
「石丸君のノート凄いもん。参考になっちゃう。けど、やっぱり人に教えてもらった方が早く覚えられるから石丸君に沢山聞くかも」
「ああ、構わないぞ!君の為に分かりやすい説明をしてやろう」


勉強のことになると自信満々に話す石丸君を見ているだけで癒されるし心が暖かくなる。これは恋ってやつかな。


「また明日だな!みょうじくん!」
「うん、また明日」


扉が閉まり、部屋はまた私だけになる。やっぱり寂しいものだ。
私が好きって伝えたら石丸君を困らせちゃうだろうか。告白してこの関係が壊れちゃうのも嫌だからまだ告白が出来ない。


「…苦しいけど、恋をしているときが楽しかったりするんだよね」


そうボソリと誰にも聞こえない声で呟きながら、石丸君にもらったレモンの蜂蜜漬けをゆっくりと頬張った。
レモンの酸っぱさと蜂蜜の甘さが丁度良くて美味しい。
石丸君は部屋に帰ったらやっぱり勉強かな。告白したら石丸君はどんな反応するんだろう。早く会いたい…明日まで待ちきれないや。結局眠るまで一日中石丸君のことで想いを馳せ続けた。


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