絶望の中心で愛を叫ぼうか



外も何もかもが暗くて汚くて、それらが全て私達のせいだとは分かっている。絶望の為に壊すことも殺すことも戸惑いなんてなかった。

私達の偶像である江ノ島様がお亡くなりになられてから私の仲間達は次々と絶望し、絶望の最高潮に達したときに各々の形で自殺していった。

かつてコロシアイが中継されていた街頭テレビは嫌なノイズを振りまき、砂嵐が流れている。それをただ呆然と見つめられるとふと声をかけられる。


「みょうじ?」


振り向くと私のクラスメイトである左右田君がこちらに近づいてきた。クラスメイトにあんまり会わないものだから、てっきりみんなこの世からいなくなってしまったのだと思っていたけどどうやら彼は確実に生きているようだ。


「久しぶり」
「ああ、」


左右田君は何か言いたげにこっちを見るが目線をすぐに逸らす。


「どうしたの?」
「…オメーはさ、この後どうすんの?」
「この後?…んー、まだ死ぬ絶望味わうのはいいかな。やり残したことあるし」
「ふーん…」
「左右田君は?江ノ島様を追わないの?」
「オレはオレの為にやってるだけだからな。まだ死ぬわけにいかねーよ」
「そっか、良かった」
「あ?良かったって…何がだよ?」


左右田君は不機嫌そうにこちらを睨んでくる。私の言ってることがよく分からないといった様子だ。


「まだそういう人いるんだなーって。もうひとりぼっちかと思って絶望してたのに…残念」
「あー悪かったな、オレがいてよ」
「ううん大丈夫…だって……」


そう言いながら私は左右田君にある物をひらひらと見せる。
赤黒くべったりと血のついたナイフを構えて左右田君に向けた。
彼は驚いた表情を見せるがその後ニヤリと口角を上げてスタンガンを見せつける。バチリバチリと改造に改造を重ねた結果であろうとんでもない音がこちらにもよく聞こえる。


「だって殺しがいのある人が目の前にいるんだもの」
「…やる気なんだなァ。オレに勝てるのか?」
「ふふ、それは実践してみないとなんとも」


言い終えた直後に左右田君の元へ走り出す。先手必勝だ、まずはスタンガンを手元から離れさせる為に彼の右手を狙う。


「うおっ!」


隙あり。彼は呆気なくも右手からスタンガンを離す。スタンガンはクルクルと回りながら地面を走る。彼の右腕には私がつけた一筋の傷が赤みを帯び、血が流れている。

彼にトドメを刺そうと手を掴もうとしたときだ。


「あっ!」


掴もうとした途端に左右田君に躱され、私の背後に回り込まれる。
ドンと地面に叩きつけられ、私の横に左右田君が座り込む。
そして私のうなじあたりからバチバチと音が聞こえてくるのが分かり、ゾッとした。


「あのな、ちゃんとスペアはあるんだよ」


甘かったな、と彼は余裕そうに私に言葉を吐き捨てる。ああ、ここまでか。あまりに呆気なさすぎて絶望だ。


「…はぁ、向かい合わせならまだなんとか出来たのに背後でこうされちゃあ…」
「じゃ、オレの勝ちだな」
「…そのスタンガンかなり殺せるやつでしょ?一思いにやっちゃって」


左右田君の顔を見ないでそう呟くと、スタンガンの音は止まり私の手に握っていたナイフを彼に取り上げられる。


「そんな死に方で絶望するより良い絶望の仕方あるんだけどよォ、聞いてくれるか?」


驚いた。今すぐに殺してくれるわけではないのか。少しがっかりしつつもその提案を聞くことにした。


「…うん。聞く。それって何?」
「………オレと一緒に行動しないか?」
「へっ?」
「オメーも1人じゃ大変だろ?2人ならこの世界を絶望に染め切れるかもしれねーしな」


聞けば聞くほど驚くものだ。左右田君の方に顔を向けると何か企んでそうなニヤリ顔だ。


「…何を考えてるの?」
「例えばさ、みょうじ彼氏はいるか?」
「急にデリカシーのない質問やめて。…いない」
「何だかんだ答えてくれるのホント良い奴。今からでも彼氏を作ってさ恋愛感情を交えての絶望を味わえるんだとしたら最高じゃねーか?……ほら、みょうじの目の前にいる男とかと」


どうよ?と聞いてくる左右田君は赤くて怪しい目をこちらに向けた。少しだけ弱虫だった彼とは思えない眼差しに目を逸らすフリをしつつ仰向けになるように体を動かす。
そういえば…と息を大きく吐きながら彼に問うことにした。


「…左右田君は確か好きな人いたんじゃ…」
「おう、ソニアさんのことは今でも大好きだぜ!今は別行動だけどな!」
「…それなら何故私と?」
「好きな人が2人出来た、と言ったらどうする?」
「え、それが私?」
「現に告ってるだろ…意外と鈍感だな」


私は鳩が豆鉄砲を大量に食ったような顔を今しているだろう。信じられない、こんな形で告白されるなんて。


「オレにはソニアさんがいながらもみょうじに恋をして今告ってんだ。そーんな背徳感にゾクゾクするし、オレのクズさに絶望するし…言葉にするだけでも快感が込み上げてくるぜ」
「うわ、私を使って自分を絶望させてるの?」
「その好きな女のドン引き顔、スゲーそそる……まぁ、オメーもいいだろ?そう言っておきながら心の中では、好きでもない男と付き合う絶望味わえるんだから。
まだまだ絶望してないことをオメーともっと楽しみたいんだよ、な?」


そそることについては完全無視することにした。本人の前で何てこと言うんだ。
しかし、ムカつくことに左右田君の提案には私が試してない絶望を味わえる機会が沢山あるのだ。絶望を知り尽くして死ぬのもいいかもしれない。

好きでもない左右田君と付き合って、ソニアさんと取り合いするのも悪くない。いや、激しい譲り合いの方がいいかもな。
恋人なのに殺し合いすることも良い…はたまた大好きな人に抱かれずに左右田君に抱かれていくというのも絶望的かもしれない。

いや、本当に左右田君に恋をしてしまうのが最高の絶望なのかもしれない。

想像しただけでも待ち受ける絶望に笑いながら左右田君に返事を返した。


「…いいよ、付き合う」
「マジ!?よっしゃー!」


左右田君は私の言葉にグッとガッツポーズをする。左右田君の中では所詮ソニアさんが1番で私が2番目の女だろうけど。
もし本当に私のこと好きなのだと分かったら、散々貢がせてフってやろうか。
ああもうどうやって左右田君を絶望させようか。今から楽しみで仕方ない。


「…今から楽しみだよ、左右田君」
「オレもだ!早速オレ達の拠点でも探すか」
「何言ってるの?私達の2人だけの住む場所、でしょ?」
「へへっそう言われるとゾクゾクするぜ」
「…あ、待って」


私の前に差し出された右腕を掴み、私がつけた傷をなぞるように舐める。鉄臭い血の味がした。


「…な、何だかムズムズするな。オメーに舐められるって」
「ふふ、傷つけてごめんね。もっとムズムズさせるようなことしてあげるから」
「何それ、すげー興奮する」
「さっき言ったことが嘘だったら?」
「何だよそれ!期待させておいてしねーのかよ!」
「絶望した?」
「絶望に決まってんだろ!焦らしプレイにも程がある!オメーの命生かしてやってんだからイイコトしてくれよな?」
「…ふふ、仕方ないなぁもう」


声を荒げていても左右田君の表情からして絶望の快感を味わってる様子が見てとれる。
ああ、こんな人に生かされてるなんてなんて絶望的!お礼にどんな絶望を与えてあげようか…左右田君と恋人繋ぎをしながら瓦礫しかない街を後にした。


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