「うぅーー飲みすぎた…」 「言わんこっちゃねーぞ。ほらよ、おぶってやるから」 「ありがとう…でも左右田君が歩く度に揺れて吐きそう」 「うおおおいッッ!!やめろッ、やめろオオオ!!」 もうお酒なんて飲まない。そう決めた。私のことをおぶってくれる左右田君はまだ未成年の高校生で学校はあの希望ヶ峰学園である。 寮があると聞いていたけど、年末年始ということで地元に帰ってきたみたい。 フラフラと歩く私を偶然見かけて声をかけたのだとか。 「ったくよォ、少しあの公園で休ませてくれ」 「はぁーい…」 「オレの耳元で変な声出すなって!ゾクゾクするから!」 彼の声がガンガン響く中、公園のベンチに優しく降ろしてくれた。 「ん、なんか買ってくるわ。水がいい?」 「うん、ごめんね…」 「いいって、寒い中寝るなよ?」 左右田君は駆け出していった。新年早々彼に大変な迷惑をかけてしまった。会社の新年会に参加して浮かれてお酒を多く飲んだ挙句潰れた。 同僚に途中まで送ってもらったものの一歩一歩が中々踏み出せずフラフラしてまた更に酔いが悪化することになった。左右田君が助けてくれなかったら本当に救急車送りになっていたことだろう。 「ほらよ、水飲んでアルコール出しとけ」 「ありがとうー、頭ぐらぐらするー」 「酒の酔いってどんな感じなんだ?」 「ジェットコースターノンストップで10回やらされる感じ」 「うわぁ…ぜってぇ無理」 彼に分かりやすいように例えると予想通りのリアクションが返ってくる。乗り物の修理が好きなのに乗り物酔いが激しいという変わった彼は、酒は飲まねぇの一点張りだ。 「つーか、何でそうなった?」 「新年会があってその帰りー」 「飲み過ぎだろ、オメーがそうなるの初めて見たわ」 「そぉーかな?」 「うん、おかしくなってるわ、これ」 そう言いながら私と距離を置かれる。私は思わず口に出した。 「待って待って!私っていつも通りに左右田君と接してるよ?」 「前、修理してもらったときのテンションじゃねーだろ」 「ん、そうかな?」 「そーだよ!大人しそうな人だなって思ってたのによォ」 「んー何だかごめんね」 「…ま、まァ、いいけどよ別に」 左右田君は手の中にあった缶のプルタブをカチッと開け、ココアをグイッと飲んだ。 ココア…きっとあったかいやつだ。衝撃的な高校生デビューを果たした彼がそんな物を飲んでいると思うととても微笑ましい。 私が笑ってることに気づいた左右田君は何なんだよって軽く睨んでくる。 久しぶりに会ったんだから何か懐かしい話でもしてあげようか。そう思いながら、そういえばーっと口に出した。 「初めて会ったとき覚えてる?」 「何だ急に…オレが中学のときでオメーが高校だったときか」 「うん、自転車通学だった。けど帰り道にタイヤがパンクしちゃったんだよね。で、その壊れた場所から近くで自転車修理出来るのが左右田君の実家だった」 「あー夜だったな、確かオレの親父がそのときに限っていなかったとき」 「そうそう!誰もいなくて何回も呼んでたらすごい嫌そうな顔で左右田君が来たんだよね」 「うっせ。そのときのオレだって留守番押し付けられて機嫌悪かったわ」 「でも可愛かったな。年相応で。髪黒いしメガネ君だったし」 「はぁっ!?今の方がイケてるだろ!?」 そうだろ!って詰め寄ってくる左右田君の胸を押さえ、はいはいと宥める。何だか軽くあしらわれたなってボソッと呟く声がした。 「話続けるよ?誰もいないって言われたときショックだったよ。私の家まで距離あるから押して帰るとしても時間がかかるし、明日から学校どうしようってパニクっちゃって」 「……今思えばあーやって焦るオメーは可愛かったけどな」 「でもそのときうるさいって思ってたでしょ?」 「まァな」 「可愛くなーい…」 「ここでオレの出番ってわけ。仕方ねーから直してやるってカッコよく言ったんだよなッ!」 「うるせーから、じゃなかった?」 「うっっせ!」 「…ふふ、でもビックリしちゃった。中学生の子が?なんて思ってたけど、あっという間に直しちゃったよね!」 「へへっ、流石オレ様ってやつ?」 「……あ、そういう性格?」 「いや、急に素に戻るんじゃねーよ!」 彼のツッコミは小さい頃から肩や背中をバシバシ叩いてくるんだけど、今回はやけに優しかった。ポンポンと叩いてくる感じだ。 「はぁー、確かに懐かしいな。たまーに修理目的じゃないのに来ることあったよな」 「うん、何だか左右田君のこと気になっちゃってさ」 「親父達に説明するの大変だったわ。あの高校生は誰だ?って」 「ごめんごめん、勉強教えたんだから許してよ」 「友達の姉っていう形で何とかやり過ごしてたな」 「その設定は今でも健在?」 「いや、廃れただろ」 そりゃそうだね、って笑いながらペットボトルの水を飲む。酔いも醒めてきた気がする。そう思っていると、あ。と左右田君の声がする。 「オメーからあのときの修理代貰ってねーわ」 「…んぐぅっ!?」 あまりにも急なその発言にただの水でさえ喉が詰まりそうだった。 「んはっ、それこのタイミングで言う!?」 「いや、今思い出したわ」 「えぇ…それはセコイです…」 「だーーッッ、分かった分かった!それならオレに何かしてくれる?」 「な、何か?」 「おう、それでチャラってことで!」 彼は意地悪そうに、ギザギザの歯を見せながらニコニコと笑う。 一気に酔いが醒めた。そもそもその話したのは私だしなぁ…。それに酔い潰れた私を見ておぶってくれたし水もくれたし…それ相応のお礼はしなければいけない。 左右田君は…何が良いんだろう? 「何か欲しいものは?」 「おーっと、その質問はナシな!」 「………えー」 「そういえば、オメーはオレにとって初めてのお客様だな!さて、どうしますか?みょうじ様?」 こ、この意地悪年下男子高校生っ……!! これは社会人になった私に何か奢れということか。確かに高校生って良く食べる時期だもんなぁ。 「じゃあ好きなもの何でも食べていいよ!」 左右田君と目を合わせると彼は目を見開いてぽかんと口を開けていた。 ………あれ? 「ち、ちょっと左右田君?」 呼びかけるとハッと意識が戻ったように体がピクリと震えた。 もう、言い出したのはそっちでしよ…。 「左右田君、お客様が何でも好きなの食べてって言ったよ?」 「………何でもか?」 「…………?うん、何でもいいよ?」 そう言った途端、左右田君は急に立ち上がり私の手を引いた。 「よっしゃあ!早速行くぞ!」 「えっ、今からっ!?」 「何でも食べていいんだよな?」 「うん、…言いました…」 そう頷くと彼は私を見てニヤリと口角を上げ、ギザギザした歯をちらりと見せた。 …しまった。何でも、とは言い過ぎてしまったのかもしれない。 「あ、あのさ、今からやってるお店って少ないんじゃ…」 「大丈夫だって、ホラ!」 「……もう」 もうどうにでもなれ。 そう思いながら彼に手を掴まれながらついていくしかなかった。 |