罪と罰(後編)



裁判は中盤に差し掛かっているのだろう。何より狛枝君が大ヒントを喋ってきたのだ。爆弾が大量にあるファイナルデッドルームにクロが行った…。そしてそれは誰なのか。


「だぁーっ!そもそもオレはそんな所に行ってねぇ!デッドルームなんて死にそうな所行くかってんだ!」
「そうだね、弱気な左右田クンが進んであの部屋に行くなんてあり得ないよね」
「そ、そんな冷静に言われるとなんだか傷つくぜ…」


狛枝君にバッサリ言われてしょげる左右田君。だがみんなは納得したようだ。彼が人殺しの為に危険な所に行かない、と。


「ファイナルデッドルームに入った人が誰か分かれば終わるんだけどなぁ」
「狛枝、お前が行った時間は分かるか?」

「昨日の夜だね、みんながパーティの準備してるときだよ。何か良い贈り物はないかなって遊園地あたりを探しててね。モノクマがどうしてもやらない?ってファイナルデッドルームに連れていかれてさ」

「被害者ぶっちゃって〜。うぷぷ」
「全くお前は自由過ぎるよ…そのときにいなかった人っている?」


みんなが考えていると真昼ちゃんが声を震わせる。


「……なまえちゃん。なまえちゃんがいない」
「はぁっ!?何でみょうじが…いや、オレも花村の作る飯を食ってて確かに見てねーな…」
「ふぇ、終里さん、パーティ前に食べていたんですねぇ…でもみょうじさんがいないとなると爆弾は…」


「待て!そのパーティ前にみょうじは襲われているんだ。爆弾を持ち出すのは昨日の昼でも一昨日だって出来る!
狛枝!お前はファイナルデッドルームに行ったなら何か持ち出したのか!?」


ペコちゃんが声を荒げる。狛枝君はいつもの調子で答える。


「あはは、怒らないでよ。ボクがそこから持ち出したのは爆弾ではないよ。だけどもう燃やされちゃって無いんだよね…」


…ん?燃やされた?


「そこにあったのはね武器とか爆弾だけじゃないんだよ。人形もあったんだ。多分武器の威力を知るためなんだろうけどすごかったね、質感が人間そっくりだったから。だからパーティに来ないみょうじさんを驚かせるつもりでコテージのベランダに置いておいたんだよ。窓からはブラインドがかかってて中は見れなかったんだけどね」


狛枝君はそんなことしてたんだ。全然知らなかった。そもそもどうやってベランダまで行けたのかは言わないでおこう。それに彼なら出来そうである。


「狛枝、その人形は質感が同じって言ってたな。本当に、人間の肌みたいな感じだったのか?」
「運んだときなんてまるで小さい子供を抱えてるような感触だったよ。あのときは少し気味悪かったけどね」
「うぷぷ〜あれは人間そっくりに仕立て上げたからね〜でもアレよりボクのぬいぐるみの方がキュートだよ!」
「人間そっくりってことは…中身もそうだったのかな?」
「うん!だって武器の威力を知る為のダミー人形だよ?中身も内臓に似せたものを使ってるよ」

「ふむ…なら現場の肉片は人形だっていう可能性もあるな。それなら何でみょうじがどこにもいない?そう考えると可能性高いのはみょうじと人形が一緒に爆破されたってことだが」
「そうじゃあ…あの小ビンの謎もある。デッドルームへ行ったやつ、アレの持ち主が同一人物と考えるのが妥当じゃが…」
「それに遠隔で爆破したってことはクロはまだボタン持ってるってことはないっすか?捨てたらルール違反っすよ!」
「そ、それなら小ビンはどうしてあそこにあったんですかぁ…?」
「それは"落し物"と判断したんでちゅ…もちろん"故意に"捨てたらルール違反でちゅよ!」

吊り上げられているウサミが説明する。

「あのビンは確か罪木が拾ったんだよな」
「は、はい…コテージ近くの水の中にありましたぁ…」
「きっと火事の消火作業のときに、クロが思わず落としてしまったんじゃないかな?」
「だとすれば消火作業、水を運んでたやつだな!」
「水を運んでた人なんてほぼ全員だったよ!」
「あの小ビンは水の中にあった…だから小ビンの液体も水の中だね」
「なまえちゃんも貰っていたのなら…悩み、あったんすかね?」

「待て…悩みだと?」

みんなの視線が田中君に集まる。


「俺様に心当たりがある。結構前だがみょうじが俺様に戯言を言ってきたことがある…"最近どうも上手くいかない"と」


…あれ、そんなこと言ったっけ、結構前って言ってたからもしかしたら何か言っていたのかも。


「上手くいかない…?」
「あの毎日楽しく生きてるヤツの言うことだ、聞いた所、恋愛関係に何かあったようだ」
「ええええ、みょうじさんが恋愛だって!?」
「きゃーー!なまえちゃん恋しちゃってたんすねー!で、で!お相手は!?」
「ま、待て!そんなのソウルメイトであるオレにも言われてねーぞ!何でオメーが知ってんだ!」

…そんなに恋愛から遠い印象を受けていたのか。ほとんどの人がびっくりしていることに少し驚いていた。田中君が呆れながら口を開く。

「…だから本人から聞いたのだ、分かったか」
「本当にそうなんですか…?みょうじさんは誰にでも愛される方です。フラれるなんて信じられませんわ」


あれ…?何かが引っかかった。その後電撃のように真っ直ぐ通った推理にいやそんなまさかと信じられなくなる。だって…。あのことは誰にも知られていないはずだ。


「…闇の聖母よ、今何と言った?」
「…?何か言いましたか?」
「確かに俺様はみょうじが恋愛関係に何かあったとは言ったが…フラれたとかは一言も言ってない」

視線は一気にソニアさんへ向かう。その視線は信じられないと言ったようなものだ。

「そ、それはみょうじさんから聞きましたわ!」
「そうか…それなら仕方ない」


十神君は考え込んだ後、主に男性陣と目を合わせる。
あ、………すごく嫌な予感しかしない。


「ここからは誰も恨みっこ無しだ。誰かを責めたりするのを止めろ。……この中でみょうじに告白されたやつはいるか?」


嫌な予感が当たってしまった。まさか私のいないところで好きな人について詮索されるとは思わなかった。
…が誰も手を挙げることはなかった。まぁ、そうだろう。状況からして告白しなくてもフラれたのだから誰も手を挙げることはない。だからこそ、ソニアさんがクロだってことがみんなの中で確立してしまったのだ。
何で知っていたのか。そして私に教えてもらったという嘘をついたこと。
まだ謎が残っている。けど信じられないのだ。どうして私を狙ったのだろう。って。


「…おい、誰も責めないから正直に」

「い、いやいや!みょうじさんをフるなんてあり得ないよ!」
「同感だね、まぁそもそも告白なんてされてないけど。そうだよね、こんなゴミクズなんかに…」
「も、もちろんぼくも告白なんてされてないけどね!妄想では…」
「とりあえず話を戻す。…ソニア、誰も告白されていないぞ?みょうじが誰かにフラれたなんてどこで知ったんだ?」
「控えおろう!みなさんは何を言うんですか!わたくしはみょうじさんから直接聞きましたわ!フラれてしまったと!…今いる人達に聞いても無駄ですわ!」

王女の声に全員が固まってしまう。スクリーン越しからでも跪いてしまうものだ。

「………なぁ、モノクマ」
「ん、日向クンどうしたの?」
「…みょうじの持っていた小ビンは何だったんだ?」
「えーそれは禁止だよ!クロが不利になっちゃうじゃん!うぷぷ」
「…日向君。今までのことを思い出して。ふむふむ、着眼点は悪くないよ。クロではなくみょうじさんの小ビンの中身を知りたいとはね。私はね…恋愛に関することだったものだと思うの。フラれたことが本当なら…多分みょうじさんは好きな人に振り向いてほしかったのかも」

七海さんの推理に身体がビクリとする。だって正解なんだから。

「そうか…分かったぞ…。やっぱりお前しか考えられないよ、ソニア」
「何でしょうか?」

ソニアさんは笑顔で凛としている。これが王女の風格というものか。

「その前に、田中。お前はみょうじについて何を言いたかったんだ?後それについて聞かれたことなかったか?」
「……あまり死者のことを詮索したくはないが、みょうじはとある壁があって中々告白する勇気が出ないと言っていた。そのことについて聞かれた人物……ハッ、…ま、まさか…!」
「…えっ、それって…」
「ち、ちょっと小泉おねぇ!分かったなら教えてよぉ!」

真昼ちゃんが小さく声を出した。ああ、多分真昼ちゃんと田中君にはバレちゃったかもね。というか全てバラされちゃうんだけどさ。

「その反応で十分だ、ありがとう田中」

日向君がお礼を言った後暫く言うのを躊躇った…がソニアさんに向けて口を開く。


「みょうじはクロの行動で告白する意味もなくフラれた…そう考えるとソニアが今回のクロとしか思えない」
「!?」


ソニアさんの笑顔がなくなり、真顔になる。それは見たこともないもので少し背筋がぞわりとする。

「まず、田中がそのことを知っていたのがこの事件のポイントだ。田中とよく話す…というか話が通じるのはソニアしかいないんだ。さっきの田中の反応で理解した。みょうじについて聞かれたのはソニアだろう?」
「……………あぁ」
「田中さん!」

ソニアさんが呼んでも田中君は申し訳ない気持ちが強いのか目を逸らしてしまう。

「ソニアはここで気づいたんだろうな。みょうじの好きな人に。だがその人物はソニアも好きだったんだろう?だから…こんな計画を立てて実行したんだ。

………ははっ、すげーモテモテじゃないか、左右田」

日向君と目を合わせた左右田君は暫く目を合わせ続ける。

「……………………へっ、オレ?」

その言葉に裁判場にいたみんなが一斉にため息を漏らす。九頭龍君とペコちゃんが溜息を混ぜつつも口を開いた。

「…いや、テメー以外いねーだろ」
「そうか、…ならあのパーティでみょうじがいなくなったのも納得がいくな。アレを見せびらかされると気分が悪くなるものだろう」

「ああ、田中から聞いた後ファイナルデッドルームへ行って手頃な爆弾を持ったんだろう。ソニアは王国の軍事については知ってる筈だ。だからC4爆弾を選ぶことが出来た。そしてみょうじのコテージに忍び込んでベッドの裏に爆弾を仕込んだ。そのときにみょうじに見られたんだろう。

そしてその次の日、左右田がソニアに告白してそれが見事に実現した。みょうじにはショックが大きすぎたのだろう。これでみょうじは誰にも告白しないでフラれるという形になったんだ。そしてその夜にみょうじのコテージを爆発させた……」

「だけどよぉ、日向。話が通じ過ぎていねーか?何でそのとき左右田が告白してきたんだ?よく分かんねーけど、ソニアが告白すればいいんじゃねーの?左右田がソニアのこと好きってみんな知ってたしよ」
「終里、"左右田が選んだ"状況にさせたかったんじゃないか?みょうじは選ばれなかった…そう思わせるために」
「だ、だけどどうして告白がこの時期に…」
「小ビンだよ」

日向君の言葉にソニアさんが眉をひそめる。

「小ビン…ですか?」
「ああ、ソニア。恐らく小ビンの中身は告白をさせるとか、気持ちを増強させる薬だろうな。辺古山、みょうじが襲撃された日、人影はホテルへ行ったんだろう?」
「た、確かにそっちへ向かった…まさか!」
「ああ、1つのグラスに塗っておいたのだろう」

それを聞いた花村君はあっと声を上げて体が小刻みに震えだした。

「そ、そういえばその日ぼくが料理してソニアさんがその料理を運んでくれたような……」
「そうじゃなぁ…食堂に来たときはグラスもソニアが運んでくれたのう…」
「料理やグラスを運んだ後、あらかじめ左右田の席を取っておいたんじゃないか?ソニアにここの席どうぞって言われたら座るだろ?」
「あ………確かに隣どうですかって誘われたような…」
「それで左右田の隣にいたならこっそり残りの液体を入れることも出来たはずだ」
「……………は、嘘だろ?……そんなわけ………」

左右田君が顔を手を当てて俯いてしまった。無理もない。好きな人が疑われてて、しかも筋道が通ってしまっているのだから。

「…なら日向さん。わたくしから質問ですわ。それなら爆弾を起動させたスイッチはどこにあるのです?」
「証拠隠滅…無いだろうな」
「何故そう思うのです?」
「消火作業のときバケツに水を入れて運んだ、そのときに空になった小ビンを落としたのだろう。そしてバケツの中に起動スイッチを"たまたま落として"そのまま放り投げた…。それでスイッチは手元になくなるし、破片が見つかったとしてもみょうじの自殺とでもいえばみんな納得するだろう」

……そっか。小ビンはソニアさんが持っていたんだ。推理も納得がいく。それなら…

そのとき誰かが声を張り上げた。思わずスクリーンを見つめる。

「待て!みょうじを殺したのはオレだ!オレなんだよ!」

…………えっ。
その声は疑いが晴れた左右田君の声だった。


「おい!左右田どうしたんだよ!?」
「オメーらはソニアさんを犯人にしてるだろーけどよ!そのスイッチを押したのはオレだ!実行犯はオレなんだよ!」
「何言ってんだ!?仮にそうだとしてもお前が押すわけないだろ!そうしてみょうじを殺す理由がないじゃないか!」
「うっせー!だからってソニアさんを犯人にしてるんじゃねぇ!それに認めていねーじゃねーか!」

………左右田君?
ああ、庇っているんだ彼女のこと。


「ねーえ?みょうじさん」

モノクマが目の前にニュッと飛び出てくる。

「ひゃあっ、脅かさないでよ!」
「うぷぷ、ごめんねぇ。んで、オシオキのことなんだけどさ」
「しない方向でしょ?」
「いやーそうだったけど…オシオキしちゃう?だって!愛しの左右田クンがみょうじさんを殺した彼女を庇うなんて!左右田クンは小ビンの液体薬で…おかしくなっちゃったに違いないよ……シクシク」
「…ソニアさんが持っていた小ビンはなんなの?」

「うぷぷ、みょうじさんに特別教えちゃう!アレはね『飲んだ人を奴隷にしちゃう』んだよ!」


飲んだ人を…奴隷に?言葉を何回か繰り返しても意味が分からなかった。
はぁ!?何それっ……!?


「そう、王女に相応しいよねー。今左右田クンが彼女を庇い出したでしょ?それそれ!
もちろん!飲んだ人を操る信号を彼女は持ってるよ!本当神経学者の遺産はスゴイよ!」


………なんてことだ。
モノクマが消えてスクリーンに映る。開いたクマの口は非情なものだ。


「クロになるのは計画立てた人じゃなくて実行犯になるね〜うぷぷ」


…これから。オシオキは行わないにしても疑心暗鬼の日常が待ち受けるだろう。特に左右田君は生きた心地がしないだろうなぁ。

「はい、決まったー?それじゃあ投票しよっか!」


次第に進んでいく状況を全て飲み込むことが出来なかった。ただ…疑い合うことなく幸せになってほしいのに。


「モノクマ!モノクマァ!」

シアターが響くように声を張り上げる。そうするとモノクマがニュッと出てくる。

「はい、何何?」
「話途切れたけど、…オシオキする方向でいいよ」
「おお!待ってましたァ!うぷぷ」
「ただ聞きたいんだけど、投票が間違えたらどうなるの?」
「方針としてはクロ以外オシオキだけど…?」

ん、全員…!?

「ままま待って!あのさ、この方針はどうかな…?」
「んー?ボクはボクの方針が良いけど…みょうじさんの案が良かったらそれにしようかなぁ?それにオシオキ提案したのはキミだもんね!」


投票の結果、左右田クンに決まりました。


「ちょっと!実行犯って自白したでしょ!?何怯えてんのよ!」
「ちげぇよ…オレが勝手に言い出して…」
「ふぇぇぇ、に、二重人格ってことですかぁ…?」
「オレは…本当に何にもしてねぇ。何であんなこと…」
「左右田…………」


「はーい、みんなお別れの準備は出来た?」

ニュッとモノクマが現れる。それに、七海さんが疑問を問いかける。

「ねぇ、お別れってどういうこと?」
「オシオキしない方向にしたけどさ、やっぱりしようかなって!だって投票で選ばれた左右田クンは、"実行犯ではない"けど流石にボク、オシオキしないとみょうじさんも浮かばれないって……」

場が凍りついた。オシオキがどのようなものかという不明瞭さ。オシオキが無いという勢いで投票したこと。そして彼は実行犯ではなかったこと。そこにいたほぼ全員に罪悪感が出ただろう。

「待ってくれ!オシオキしない方向って言って急に変えるとはどういうことだ!?左右田は違うんだろう!?」
「えー?これは"希望者"がいたんだから仕方ないよ。ぶひゃひゃ!」

「…は?どういうことだ?オレは…オレは…」

茫然と座り込んでいる左右田君に近づく人がいた。彼の大好きな人だった。


「…ソニアさん…オレは……」


彼女はしゃがみ込んで彼に笑顔で耳打ちをした。


「左右田さん、わたくしの為にオシオキ受けてくださいね」


そう告げられた彼はただ両目から涙を流しながら、信号のせいかはたまた王女の風格に逆らえないのか、彼の口角が上に引き攣り、


「は、 はい…」


それだけしか言えなかった。それを近くで見てた日向君や十神君は顔を歪ませることしか出来なかった。


モノクマがハンマーで赤いボタンを押すとどこから出たのか鎖が左右田君を縛り、別の部屋へ強制的に送られる。
送り込まれた場所は周りが機械に囲まれた薄暗い場所だ。
左右田君の鎖が切れ、上から工具箱が落ちてくる。目の前を見て左右田君は息を呑んだ。目の前にはモノクマの形をした時限爆弾がカウントを始めており、モノクマから飛び出た吹き出しセリフパネルには「ボクを分解したらカウントが止まるよ!」と書かれていた。


左右田和一 MISSION【3分デ爆弾解体セヨ】

___________…………。

___________え?君が?

___________命拾いしたっていうのに優しすぎない?

___________…それはね、君が自己満足するだけのものになるんだよ?それでもいいならあのオシオキ部屋の中に入りなよ、うぷぷ…


工具箱から工具をひたすら駆使してモノクマを解体していく。その速さは超高校級のメカニックと呼ばれる手さばきだ。周りの機械のモニターからは裁判場の中継が出てきて、みんなを写す。みんな神妙な顔で画面を見続けていた。

あっという間にモノクマは解体され、1つの四角い箱があった。これが爆弾だろう。カウントは残り1分を切っていた。
後はこれだけである。………のだが。


「…コードもボタンも、ネジも何も無い…」

彼はどんどん青ざめていく。重みはあるんだが解体するためのものが無いのだ。ただ、カウントしていく箱…そして彼は察した。どうあがいても助からないってことを。


「ははっ……」


恐怖を超えて彼は死という絶望に笑うしかなかった。ただ泣きながら狂ったように笑うしかない。
その姿はモニター越しであっても日向君達を絶望させただろう。

モノクマに頼んでもらって入れてもらい、私は下を向きながら狂ったように笑う左右田君の肩を叩いた。
ふとモニターを見ればみんなは驚いていた。幽霊じゃないか、やっぱり生きてた、どうしてという様々な声が聞こえる。
それに構わず彼の顔を上げさせる。泣き顔でぐしゃぐしゃになってる左右田君を立たせて紙を持たせた。少し汚い字になってしまった私の"遺書"である。カウントは残り30秒を切っていた。もう余裕がない。


「みょうじが迎えにきてくれるなんてな…天国連れてってくれるか…?いや、地獄か?」


虚ろな目で見つめてくる左右田君を部屋の外へ渾身の力を出して押し出した。


「誰も恨まないよ」


そう言って扉を閉める。
その部屋の中には私1人、鉄の扉に寄り添って座り込む。カウントは10を切っている。鉄の扉の外からドンドンと叩いている音がする。左右田君かな、私の名前で呼んでいる。
それだけでみんなの前で"生き返って"良かったって思えるんだ。

全ての罪を受け止めた私は罰を

…………。


「エクストリームッッ!!ブラボーブラボー!」

「何ー?みんな黙り込んじゃって。折角みょうじさんが左右田クンのオシオキを代わりに受けてくれたのに…あ、2度死んだけど3度目はないよ!生き返らないから!というか最初はそもそも死んでないから!…ホラ左右田クン帰ってきたよ!みんな迎えてあげて!」


「え?みょうじさんはどこにいたって?まあまあ最初から話してあげるからさ!」

「みょうじさんが小ビン持ってたのは正解〜!え?中身?うぷぷ…高校生には刺激強いよ?なんと惚れ薬!これを左右田クンに使おうとしてたんだよ!だから爆発したコテージにはいなかったわけ!中々行動力あるよね〜。まっ、みょうじさんが死んでた方が面白いからボクが映画館に監禁したわけ!だから九頭龍クンが来たときヒヤヒヤしちゃって…。最初はオシオキ反対してたけど、最終的にはみょうじさんの希望でOKになったんだよ!自分の罪とクロの罪、そしてみんなが持っているであろう罪悪感全てを背負って彼女が全て罰を受けました!
左右田クン紙貰ってたでしょ?読んだ?…コラー!爆発の後から泣いてばっかりじゃないか!…うぷぷ、みょうじさんはみんなが疑い合うことのない平和な修学旅行を送ってほしいんだってさ!殺人しようとしたクロが紛れているというのによくこんなの考えるよね!…………ああ、日向クンに十神クン…そんなに怒らないでよ。次コロシアイ起きたら本当の学級裁判始めるからね!アーハッハッハ」

……


「………ふぅ、なーんか今日は疲れちゃったなぁ。

……ほーんとみょうじの存在はアイツらにとってデカかったよね。みょうじが全て罪を背負って…とか!自己犠牲精神が強すぎて自己満足の塊だっつーの!……ま!みょうじがそう思いながら死んだと知ったときのアイツらの絶望顔はサイコーだったからこの私様が許そうかしら。

……とはいえみょうじもこの私様の仲間になり得そうな人物だったんだけど。使えそうだったし。その存在失っちゃったのも絶望的ね。
……さて!動機をちょこっと入れただけでコロシアイ起きたんだから、次はどんな動機がいいかな?うぷぷぷ……」


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