14話

ほこりだらけの中、色々な物で埋もれていた座布団を引っ張り出し、それを軽くはたいて、物が散らばっていないスペースに、小春と自分の分を置いた。

「長い間放置だったから汚ぇけど……良かったら使ってくれ」

「ありがとう」

 小春はそれだけ言うと、そっと座布団に腰を下ろした。

「しばらくはここで大人しくしてた方が良いな」

「そう、だね……」

 そう言って視線を落とす。

 実は、キリの家から脱出してからというもの、小春はずっと上の空だった。原因は多分、キリのことだろう。

「キリ姉さんのことか」

 海李がそう言えば、小春は少し俯いた。

「無理もねぇよな、あんな状況で……」

「キリは、悪くないのに」

 ぽつり。そう一言呟く。その一言が、海李の胸に深く突き刺さった。

 そう、キリは悪くないのだ。キリはただ、狂気に満ちていた自分達から小春を守ろうとしていただけなのだ。なのに自分は、光吉は、咲人は。何の罪もないキリを殴った。蹴った。罵った。そして殺してしまった。まだ完全に分かったことではないが、多分もう、いや、ほぼ彼女の死は確定しているだろう。

 海李の脳裏に、キリが倒れる映像が浮かぶ。もしもキリが殺されたとしたら、犯人はだいたい予想がつく。とは言っても、容疑者は二人しかいないのだが。

 咲人は光吉と同じくらい狂ってはいるが、自ら殺人を犯したりはしない。となると、残るは光吉となる。と、海李は推理した。まぁ、推理という推理ではないが。

 しかしそうなると、今頃光吉達は自分と小春を探してるに違いないはず。だからむやみに外出するのは危険なのだ。

「まぁ、一応は食料もあるし、生活は出来るから心配はいらねぇぜ。風呂にも入れるし、布団もあるしな!」

 少しでも小春を励まそうと海李は必死に笑顔を作るが、小春は小さく反応するものの、一向に笑顔を見せてはくれそうにはなかった。

「小春……」

 海李はただ、小春の笑顔が見たいだけなのに、どうしてか胸の奥がちくりと痛んだ。





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