7話

「呆気ないなぁ。ほーんと、キリ姉さんってバカだよね」

「口ほどにもない」

「何が小春を守る、だ。全然守れてねぇっつの」

 口々にキリの悪口を言う三人。

 ぎりぎりと歯を食い縛る。小春は、三人に向かって声を上げた。

「それ以上キリをバカにしないで!」

 怒りでわなわなと震える肩と拳。今にも光吉に殴りかかりそうだ。

「キリは……キリは……!」

「大丈夫だよ」

 優しい声色で、光吉は言った。

「まだ、死んでないから」

「ほ、本当……?」

 少しだけ、小春に希望が芽生える。

「そう。キリ姉さんには、じっくり痛みを味わってから死んでもらいたいんだ」

 そう言ってにこりと笑う光吉が、小春には悪魔にしか見えなかった。

 小春の中に芽生えた希望は、一瞬にして絶望に変わった。

「ちなみに今のはスタンガンっていってね、人を気絶させるのに使うんだ」

 この男は、最低以外何者でもない。

 このままでは、キリが殺されてしまう。小春は焦っていた。

「じゃあ準備しようか」

 そう言うと光吉は、キリの両手両足を縛る。

「何してるの……!」

 怒りを込めて光吉を睨めば、彼は一切動揺せず、笑って答えた。

「手足を縛ってるんだよ。抵抗されても面倒だからね」

「どうしてキリに手を出すの! キリは何もしてないでしょ! キリは何も悪くないよ!」

 涙目になりながら訴える小春に、光吉は狂気じみた視線を送った。

「何もしてないなら、殺すわけないさ」

「じゃあ、何で……!」

「そいつは、俺等から一番大事な物を取り上げようとした」

 小春の言葉を遮り、海李が口を開く。

「一番大事な……?」

「そう……。私達が狂うほどに愛している……君をね」

 そう言って小春を見る咲人の目は、酷く冷たかった。

「何で……何で私なの。何で私なの。何でいつも私なの……」

 ぶつぶつと呟き始める小春。

「お前は悪くない……」

「キリ……?」

 スタンガンで気絶させられていたキリが、目を覚ましたのだ。

「あーあ、起きちゃったか」

「寝てりゃ楽に死ねたのにな」

 ふっ、と海李が鼻で笑うが、そんなのまるで聞こえていないかのように、キリは喋り出した。

「私はお前を守ると決めたんだ。だから、絶対に守ってみせる」

 そう言ってキリは立ち上がる。

「バカかお前」

「貴様に何が出来るというのだ。たかが人間ごときに」

「お前も人間だがな、咲人」

「ふざけてないでよ、三人共」

 咲人の相変わらずの痛々しい発言も、仲裁に入る光吉も、何もかもが、懐かしい。キリはそう思った。

「お前達、変わってないな……」

 思わず口にしてしまった言葉。

「変わってない? キリ姉さんも同じでしょ」

「そうなの……か」

「てめぇは昔からずっと、変わってねぇ」

 海李のきつい口調も、咲人のバカバカしい発言も、キリにはすべてが懐かしいと思えた。





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