4話
キリは小春の親友であり、姉でもある。
血は繋がっていないが、離れて住んでいる……義理の姉、というものだろうか。
小春は汗ばんだ指で、インターホンを押した。
真夜中だが、そんなことを気にしている場合ではない。
彼等に捕まったら、小春は終わりなのだ。
少ししてから、眠たそうに目を擦りながら、キリが出てきた。
「キリ! 助けて!」
そんなキリに構わず、泣きながら抱き着く小春。
その異常な怯え具合に、キリは一瞬で目が醒め、真面目な顔付きになった。
「何があったかは分からないが、とりあえず中に入れ」
「う、うん」
部屋に入り、温かなホットミルクを両手で握り締め、小春はキリを見つめていた。
「で、何があった? こんな夜中に」
「あの……海李、達が……」
小春は、今まであった出来事を、すべて話した。
「そんなことが、あったのか……」
よしよしと、優しく抱き締め、キリは小春の頭を撫でる。
「怖かったな。もう大丈夫だからな。私が小春を守るから」
そう言ってまた、ぎゅっと抱き締めたときだった。
携帯の、着信音が鳴ったのだ。
「嫌!」
小春はその着信音に対して激しい拒否反応を見せた。
「どうした小春? まさか……」
小春の見せた拒否反応で、キリは着信の相手が誰だか、大体予測がついた。
おそらく相手は海李達だろう、と。
「嫌! 来ないで! 嫌い嫌い嫌い! 海李達なんか嫌い!」
自分の胸で泣きじゃくる小春を片目に、キリは携帯を取った。
「もしもし」
『もしもし小春? どこにいるんだい?』
出た瞬間に来た光吉からの質問と、同時に電話越しに飛ばされた殺気のようなものに、キリは息を呑んだ。
「私は加藤キリだ。お前達、小春に何をした」
『あぁキリ姉さんか、なら話は早いね。小春を家まで連れて来てよ。俺達じゃなんかダメみたいだからさ』
「質問に答えろ。小春に何をした」
『嫌だなぁ、何もしてないよ』
「嘘を吐くな、小春が異常なくらい怯えている。何かしたんだろう?」
もう一度そう言うと、光吉は黙った。
「図星か」
『うるさいよ。キリ姉さんに何が分かるの? 俺達の気持ちなんか何も知らないくせに!』
いきなりの怒声に、キリはただ黙るしかなかった。
光吉は、こんな性格ではなかった。もっとおおらかで、優しく、大人しめな子だったはず。
『とにかく、小春は返して貰うからね』
それだけ言うと、光吉は電話を切った。
「みつ……よ、し?」
「あぁ……」
光吉の怒声が、電話越しに小春に聞こえていたようで、小春は随分と怯えていた。
「迎えに……来るの?」
「大丈夫だ。私がお前を渡したりしないから……心配するな」
キリがそう言うと、小春は少し安心したように頷いた。
「光吉……海李……咲人……。お前達に小春は渡さない。例えこの命をかけても……」
そう言ったキリの瞳は、何よりも強かった。
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