3話

 目覚めたとき、小春は汗だくだった。どうやら寝てしまったようだ。

「寝ちゃった……のかぁ……」

 あの頃は……幼い頃はまだ、平和だった。

 こんな風に、一人ぼっちになることもなかった。心が傷付くこともなかった。いや、傷付くということすら、知らなかったのかもしれない。

「何で……変わっちゃったんだろう……」

 そのとき、小春はふと思った。

 “脱走してしまおう”と。

 今なら真夜中だから、出来ないことはない。

 幸い、この部屋には鍵は付いていない。

 小春は光吉が買ってくれた、ダウンジャケットを羽織り、静かに部屋のドアを開けた。

 廊下を歩くと、微かに聞こえてくる寝息。それが誰のものかは分からないが、三人の中の誰かのものだろう。

 小春は音を立てないように、一歩一歩を静かに、息を殺して、玄関に向かった。

 玄関で振り返るが、三人が起きてくる気配はない。

 そのまま玄関のチェーンを外し、鍵を開け、家の外へ一歩踏み出した。

 後は自由だ。どこへでも好きな所に行ける。

 小春は、一気に肩が軽くなった気分だった。

 行く宛はないが、ただただ夜の街をさ迷っていた。

 ところが、あるコンビニの前で見たくないものを、いや、見てはいけないものを、小春は見てしまった。

 がっちりした体つきに、茶髪につり目。それは間違いなく、小春の幼馴染みの矢野海李だった。

 逃げ出すも、相手も小春に気付いたようで、異様なスピードで追いかけてきた。

「小春!」

 小春は運動は出来ないことはなかったが、もう何ヵ月も監禁されていて、体が鈍っていることもあり、ましてや相手はスポーツ好きの男子だ。差は圧倒的だった。

 小春は人の群れの中を駆け抜け、見事に海李を撒いた。

「何で……海李、が……」

 人の群れを抜けて、少し走ったところで立ち止まり、肩で息をする。

 撒いたとはいえ、まだ油断は出来ない。

 海李が二人に連絡して、三人に追いかけ回される羽目になるかもしれない。

 ならばと、小春はある場所へ向かった。

 誰も味方のいない小春が今、頼れるものは──

「キリっ……!」

 加藤キリ。ただ一人だった。





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