2話

「おせぇよ、光吉」

 ドアを開けたと同時に聞こえた気だるそうな声の主は、矢野海李である。がっちりした体つきに、茶色の髪。少しピリピリとしたオーラを纏っているが、中身はただたんにスポーツが大好きな純粋な子供だ。

「ごめんごめん」

 そんな海李の言葉を、軽く受け流す光吉。

「ところで小春、私の作ったスクランブルエッグと、光吉の作った激まずチャーハン、海李の作った激まずカレー、どれが良い? もちろん私のだよな?」

「激まずカレーって何だよ! 光吉のは分かるけどよ」

「何言ってるんだい、激まずは二人のだろう?」

「貴様等の作る料理など、すべて不味いに決まっている。そんな毒々しいものを小春に食わせるわけにはいかない」

「俺のチャーハンにはね、小春への愛がたくさんこもってるから、むしろ美味しすぎて気絶しちゃうよ」

「気色が悪いな。それに貴様の愛など、小春もとんだ迷惑だな」

「嫉妬かい?」

「誰がそんなもの」

 繰り返される会話。小春が入る暇もない。そんな言い合いをぼうっと眺めていると、光吉がそうだ、と何かをひらめいたように手を打った。

「三人のを小春に食べてもらえば良いんだよ」

「最初からそうすれば良かったのだ」

「じゃあ小春、あーん」

 目の前に差し出される、スプーンに乗ったカニチャーハン。

 口にスプーンが当たるくらい近くに来ると、小春は小さく口を開けた。

「美味しいかい?」

 光吉の質問に、小春はゆっくり首を縦に動かし、美味しいというサインをした。

「じゃあ次は俺のだ」

 同じく目の前に差し出される、海李の作ったカレー。

 ここでは、小春に自由はない。風呂やご飯どころか、一人でトイレに行くことすら出来ない。

 それは、三人の小春への愛が強すぎるためで、仕方がなかった。

「美味いか?」

 同じく声は出さないものの、首を縦に動かし、美味しいというサインをした。

 そして光吉と海李と咲人は、順番に食べさせていった。

 ここでは小春の自由はない。すべての主導権を握るのは、佐々木光吉、矢野海李、三雲咲人の三人だった。





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