1話

 朝は繰り返しやって来る。毎日毎日、やって来る。小春は朝が嫌いだった。

 なぜなら朝は、小春にとって“悪夢”の始まりだからだ。

「小春」

 名前を呼ばれるだけでもびくりとする。小さく悲鳴を上げ、春樹小春はぎゅっと目を瞑る。“怖い”この二文字が、彼女の頭の中を支配していた。

「怖がらないでよ。ご飯、出来たから迎えに来ただけだよ」

 柔らかく微笑むその少年。昔はその笑顔が大好きだったのに、いつからだろう、“大好き”が、“恐怖”に変わってしまったのは。

「行こうか」

 部屋のドアを開け、首だけこちらを向いている彼は、佐々木光吉。

 小春は見向きもせず、ただぼうっと光吉を見つめていた。

 無言でベッドから動けない彼女を見た光吉は、仕方ないという風に笑って小春に近づいた。それと同時にふわりと浮いた体。数秒遅れて小春は理解する。光吉に抱き上げられているということを。

 小春を抱いたまま光吉はリビングへ向かう。

 さあ、今日も朝が来る。





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