豪風でピアスの話。



小さなお揃い



 授業も部活も終え夕香のお見舞いに行った病院の帰り。
 ついでにスポーツショップへ寄ろうと商店街へ足を運ぶと、たまたま買い物をしていた風丸と出くわした。
 親に頼まれたのか、近所にあるスーパーのビニール袋を左手にぶら下げている。
 風丸は俺に気が付くと長いポニーテールを揺らしながらこちらへと振り向いた。
「豪炎寺じゃないか。なんだ、まだ家に帰ってなかったのか?」
 学ラン姿の俺を見て風丸が尋ねる。夕香の見舞いだという話をすれば「またか」と呆れたように笑った。
 かく言う風丸は家で着替えたらしく私服を着ている。普段はあまり見られないその姿に少しだけ頬が緩むのを感じた。
「用事も終わったし、いまから帰ろうと思ってな」
「そうなのか。せっかくだから途中まで一緒に帰らないか?」
 風丸の嬉しい提案を断る理由もないため短く返事をして頷く。
 途中までと言っても残念ながら家の方角的に商店街の入口あたりまでだろう。
 この時ばかりは立地条件の良い自分のマンションが恨めしくなった。



 並んで歩きながらサッカーや夕香の容体の話をしていると、ふいに風丸が俺の顔を横目で見ながら呟いた。
「かっこいいよな、それ」
 すぐには何を指しているのかわからなかったが、風丸の視線が耳のあたりに注がれているのを感じ耳朶に手をやる。
「……これの事か?」
 自分が付けているピアスに触れながら聞き返すと、風丸は「うん」と頷き返した。
「そういうのって何処で開けるんだ? 病院か?」
「いや……病院でも開けれるが、俺のはピアッサーを買って自分で空けた」
 病院だと中学生は断られる可能性があるし、だいいち最寄りの病院には父さんが居る。
 自分で開ける時だって父さんにはバレないようにこっそりやった、と言えば風丸はくすりと笑った。
「こそこそしてる豪炎寺なんて想像が付かないな」
 どんな姿を想像したのか知らないが、そう言われると少し恥ずかしい気がする。
「でも開けるのって痛くないのか?」
「少しは痛いな。だから穴を開ける前に氷で冷やして麻痺させるんだ」
「へぇ……」
 当時の事を思い出しながら説明をした。ピアス穴を開けたのは一年の頃だからそんなに昔ではない。
「……もしかして、お前も開けたいのか?」
 興味津々な様子の風丸に今度はこちらが尋ねる。
「ちょっとな。でも痛いのは嫌だし、親とか先生に怒られそうだからどうしようかと思って」
 困った様に眉を顰める風丸の、普段は長い前髪に隠れてあまり見えない耳をちらりと覗く。
 白くて柔らかそうなその肌に何だか噛み付きたくなった。
「それにホラ、なんかお揃いみたいだろ?」
 風丸はそう言いながらはにかむように笑う。
 どういう意味で言ったかは知らないが、お揃いのピアスを片方ずつ付けるというのも悪くないな。
 でも、それ以上に勿体ないと感じた。
「それも悪くないが、俺はあまり薦めないな。せっかく綺麗な肌をしてるのに勿体ない」
「え……」
 思ったままの意見を言えば風丸は頬をうっすらと染める。
「……でも、どうしても開けるって言うんなら手伝ってやるよ」
「いいのか?」
 冗談混じりで言ったつもりなのだが、風丸が瞳を輝かせながら返すので微妙に後悔した。
 だけど風丸の耳朶に自分が穴を開ける、というのはなかなか興奮するかも知れない。
「……風丸を傷物にするってのはなかなか魅力的な響きだからな」
「……ばかっ!」
 素直にそう言えば顔を真っ赤にした風丸に軽く頭を小突かれた。
 この様子ならもう穴を開けたいとは言わなそうである。
 俺は安心したようながっかりしたなような、複雑な気持ちになった。



end

管理人はピアスを開けた事がないのでいろいろ間違ってるかも知れません。

title by:モノクロメルヘン


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