円風ほのぼの。



あったかいね



 ――眠れない。
 自分にあてがわれた宿舎の部屋で、風丸はベッドの布団にくるまりながら溜め息を吐いた。
 イナズマジャパンの宿舎である雷門中は私立だけあって教室(だった部屋)でも空調がしっかりと備わっている。
 要するにエアコンが効きすぎて寒いのだ。夏まっさかりだと言うのに何だこの寒さは。
 昼間ならそれでも動いたり喋ったりしていれば暑いくらいなのだが、深夜にただ寝そべっているだけの状態ではかなり身体が冷えた。
 就寝用に着ているジャージは長袖なのだが、通気性の良い生地はあまり防寒にはならない。
 風丸はしばらく布団の中でゴロゴロしてから起き上がると、監督や他の選手に見付からないよう静かに自室を出た。
 廊下にある自販機でホットココアでも買おうと考えたのだが、時期が時期だけにアイスの飲み物しかない。
 仕方がないので少し面倒だが食堂まで行き、インスタントのコーヒーを入れて椅子に座った。
 手に持っただけで暖かさが広がるカップからコーヒーを飲み安心から一息を吐く。
 すると後ろのほうにある扉がガラリと音を立てて開かれ、風丸の肩が驚きと緊張で跳ねた。
 ――監督だったら怒られるかも知れない。
 若干怯えながら恐る恐る後ろを向くと、入り口に立って居たのは見知った幼なじみである円堂だった。
「あれ、風丸じゃん! お前もなんか飲みに来たのか?」
「そうだけど、静かにしろよ。いま夜中だぞ?」
 監督でない事に安堵しつつ円堂の大声を注意する。
「コーヒーでいいか?」
「おう、サンキュー」
 風丸は尋ねてから慣れた手付きでコーヒーを入れ、猫舌な円堂のために氷も一つ入れてから机の上に差し出した。
「やっぱ風丸が入れてくれたのが一番美味しいな」
 溶けた氷をスプーンで掻き混ぜてから一口だけ飲んだ円堂が、向かい側に座った風丸を見やる。
「分量の問題だろ? お前が入れるといつもバラバラだからな」
 風丸は呆れたように笑う。
 大雑把な円堂がコーヒーを入れると毎回「苦い!」だの「薄い!」だの自分で入れたにも関わらず文句を言うため、一緒に居る場合は風丸が入れるようにしているのだ。



 コーヒーを飲み終わってから風丸が三階にある自室に帰ろうとすると、二階に部屋があるはずの円堂が何故か付いて来た。
「なんだよ」
「風丸も寒いんだろ? 一緒に寝ようぜ」
 自室にまで一緒に来た円堂に文句を言えば悪びれた様子もなくそう返される。
「監督に見つかったら怒られるぞ」
「そん時は正直に寒かったからって言えば平気だって!」
 毎度の事だが、円堂のこの根拠のない自信はどこから来るのだろうか。
 風丸は呆れつつも「静かにしろよ」とだけ注意をして部屋に迎え入れた。
 シングルのベッドに入ると円堂も無理矢理に潜り込んで来る。ちなみに宿舎に備えられているベッドには柵がない。
 ――円堂は寝相が悪いから、朝になったら落ちてるかもな。
 風丸はそう思ったが口にはしなかった。代わりに、なるべく詰めるようにして横になる。
「じゃあ、おやすみ」
 向かい合う体勢で風丸が小さく言うと円堂も「おう、おやすみ」と小声で返した。
 しかし目を瞑り眠ろうとすると、円堂の脚が自分の脚に割り込んで来たため風丸は再び目を開く。
「おい、何なんだよ」
「足の先が冷えるんだよ」
 円堂の言う通りその足先はひんやりと冷たい。
 少し邪魔な気もするが何だか可哀想なので、風丸は渋々そのままにして置いた。
 円堂はそんな風丸に気を良くしたのか今度は手を掴まれる。
「風丸。手、貸して」
 言われるままに手を差し出すと、指先の辺りをぎゅうっと包まれた。
「ほら、やっぱり風丸の手も冷たいじゃんか」
 円堂に握られるまで気付かなかったが風丸の手も相当に冷えていたらしい。
「……ほんとだ」
 風丸は自分の右手を包む円堂の手を余っている左手で包み返すと、目を合わせて小さく笑う。
 体勢は少し苦しいが、お互いの体温を分け合うのが心地良くて二人はそのまま眠りに着いた。



 翌朝、風丸は円堂よりも早く目が覚めた。
 身体が湯たんぽの代わりのようにぎゅうぎゅうと円堂に抱き締められていて身動きが取れない。
 軽く溜め息を吐いてから円堂を起こそうとした風丸だが、無防備な寝顔が目に入り動きを止める。
 もともと丸っこい輪郭をしている円堂の寝顔はあどけなくて可愛くて、自然と顔に笑みが浮かんだ。
 もう少し寝顔を見ていたい気もするが、この状態をチームメイトに目撃されたりしては言い訳に困る。
 風丸は円堂に絡められた手を強引に解くと、柔らかい頬をつねって乱暴に起こした。



(いってぇ! 何すんだよ!)
(朝だぞ、起きろ)



end

円堂は猫舌ではなさそうですが。


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