晴矢と照美とちっちゃくなった風介。



神はヒマらしい



「南雲くん、喜びたまえ!」
 朝っぱらからノックもせず人の部屋に入った来たコイツは、新しくチームメイトになった自称神ことアフロディ。
 最初のうちはこの迷惑な行動にいちいちツッコミを入れていたが、電波にまともな意見は通じないと学習したので無視をする事に決めた。
 ……決めたんだが。
「ほうら起きたまえ、神であるこの僕がわざわざ訪れてあげたんだよ。ふふっ、僕の美貌が眩しすぎて瞼が開けられないのかな? 大丈夫だよ、神は慈悲深いからね。それとも僕が――」
「だあぁ! うるせえ!」
 枕元で聞いてもいない事をべらべらと喋られ、あまりのウザさに根負けしてしまう。
 俺が睨み付けるとヤツはしてやったりとばかりに天使スマイル(見た目は)を浮かべやがった。
「ほら、ごらんよ」
「あぁ?」
 アフロディはポケットから何かを取り出すとそれを俺の目の前に突き付ける。
 白魚のような指に摘まれぶら下がっているハムスターサイズの物体はよく見ると人形のようで。
 更によく見るとそれは風介にそっくりな外見をしていて、顔を覗き込むと目が合った。
「……風介?」
「なんだ」
 何の気なしに呟いた言葉に人形が返事をする。
 ……喋った?
「え!? えええぇ!?」
 ぷらぷらと振り子の如く左右に揺れる風介らしき物を覗き込み顔を確認する。
 不機嫌そうに眉を顰めてから片手で髪を梳く仕草はやはり風介そのままで。
「お前、本物の風介か!?」
「本物も偽物もあるか馬鹿晴矢。凍てつけ」
 あ、これ風介だわ。
 ――じゃなくて!
「どういう事だよアフロディ!」
「君が喜ぶと思って」
 いつ俺が風介が小さくなったら嬉しいなどと言っただろうか。いや間違いなく言ってない。
「てか、何をどうやったらこんな事が可能なんだよ!」
「神の力さ!」
「もう神キャラはいいっつうの!」
 やはりコイツと会話をしてもキャッチボールにはならず、鬱憤と疲労が溜まるだけ。
「嬉しくないのかい? ……残念だよ」
 俺の反応がつまらなかったらしく、アフロディは溜め息を吐いてから風介をひょいと投げてしまう。
 ベッドの上に投げたつもりなのかも知れないが、弧を描いて飛んで行った風介は枕元のゴミ箱へホールインワン。
「あれっ?」
「ちょっ、風助!」
 慌てて覗いたゴミ箱の中には殺気やら冷気やらを放つ風介がティッシュの山に埋もれて居た。



 ぬるま湯を注いで風呂代わりにしたマグカップに風介を入れてやる。
 潔癖症な所があるコイツはゴミ箱にダイブしたのが相当に不快だったようだ。
「別にゴミ箱だからってそんなに汚い物は入ってねぇぞ」
「何に使ったかわからないティッシュが山のように入っていたじゃないか」
「ジュース零しただけだっつの」
「それはそれで嫌だ」
 包帯を切ってタオル代わりにし、ボディーソープを付けて渡すと身体を洗い出す風介。
 その光景に某目玉のオヤジを思い出してしまうのは仕方がないだろう。
 しかし上から覗いているのに何も文句を言って来ないのが不思議だ。
 いつもの風介ならうっかり着替えを見ただけでもノーザンインパクトを炸裂させるのに。
 まぁ、こちらとしてもミニサイズの裸を見た所でやましい気分にはならないのだが。
「某マンガだとさ、水かお湯を浴びたら変身するんだよな」
 あれの場合は男が女になったり人間が動物になったりしていたけど。
 そんな話をしつつ風呂のおかげで上機嫌な風介を眺めていると、マグカップにピシリとヒビが入った。
「? なんか、狭くなって来たような……」
 よく見ると最初はカップの半分程度のサイズだった風介が今はギリギリの大きさになっている。
 そう思った途端に風介の身体はみるみるうちに大きくなり、カップが割れテーブルにお湯が零れた。
 いきなりの変化にバランスを崩したらしい風介は俺を巻き込んで倒れ、素っ裸のままのし掛かられる体勢になる。
「う、わっ……離れろ晴矢!」
「お前が乗ってんだろ!」
 お湯に浸かっていたせいでいつもより高めな風介の体温に嫌でも緊張してしまう。
 上に乗っている身体をどかそうにも、手を伸ばせば柔らかい肌に触れてしまい殴られる始末。
 しかもその後は苦情を言いに来たチャンスウにありがちな誤解をされちまうし。
 ――この件で俺が理解した事は、金輪際アフロディの相手をしてはいけないという事だ。



end

チャンスウは照美の保護者だって信じてる。


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