マークが犬化しちゃいました。



お犬さま騒動!



 マークはチームのキャプテンという事もあり、試合だろうが練習だろうが一番先に集合場所に来る。
 なのに今日は他のチームメイトが全員集まった頃になっても姿を現さなかった。
「マーク、今日は珍しく遅いね」
「だな。いつもは一番早く集まるのに」
 土門と練習前のウォームアップをしながら他のチームメイトにも聞いてみるが誰も理由は知らないようだ。
 いつもマークと組んでいるディランは相方が居ないため、すでにアップを終えた選手に代役を頼んでいた。
「ディラン、一之瀬、土門! 少し集まれ」
 そこへ響いた監督の声に手を止める。俺たち三人を呼ぶという事はマーク関係の話だろう。
「どうしたんですか?」
 人気の少ない通路に移動させられたため小声で質問をする。
「マークの事なんだが……本人の口から聞いたほうが早いだろう。医務室に居るから行って来い」
「医務室!?」
 監督から発せられた言葉に怪我でもしたのかと不安になり、急いで医務室へと向かう。
「マーク!」
 医務室の扉を開けるとカーテンを閉めたベッドの上にマークらしき人影が見えた。
「マークだよね? 開けるよ?」
「ああ……」
 中に居るマークの返事を聞いてから静かにカーテンを開く。
 座っている彼に怪我らしき物はなかったが、何故か頭をタオルで包み下半身にはシーツを被せていた。
 表情は沈み顔も青ざめていて明らかに様子がおかしいとわかる。
「マーク、どうしたんだい?」
 ディランが心配そうにベッドへ駆け寄るとマークは無言で立ち上がり、ゆっくりとタオルを外した。
 その下から現れた物は――。
「……犬耳?」
 マークのふわふわと跳ねた髪の隙間から、これまたふわふわとした青い三角の耳――ストレートに言えば犬耳が生えていた。
 不可思議な光景に三人揃って呆然としてしまい、やっと口から出た俺の言葉にマークは顔を赤くした。
「一人でグランフェンリルの練習をしてたらこうなったんだ……」
 青白い顔から真っ赤な顔になってしまったマークは絞り出すように呟いた。
 お尻に目をやれば耳と同じ色の尻尾がズボンからはみ出ている。ぷらぷらと揺れている所を見るとちゃんと動かせるようだ。
「えーと……」
 なんとコメントすればいい物かわからず沈黙が流れる。その重い(?)空気を破ったのはディランだった。
「大丈夫だよマーク! よく似合ってるから!」
「似合ってたら大丈夫って事はないだろ……」
 いつもならディランのボケも天然ボケで返すマークだが、流石にこの状況ではそれも不可能らしい。
「とりあえず俺はこんな状況だから練習には出られない……今日はカズヤがキャプテン代理をやってくれ」
「でもこんなに弱ってる君を独りになんてさせられないよ」
 マークの肩を掴んで詰め寄る。本音を言うとこの犬耳姿をもっと堪能したいってのもあるんだけど。
「マーク。チームは俺とディランで何とかするから、こんな時くらい一之瀬に甘えとけよ」
 土門は俺の考えを理解しているのだろう。少し呆れた顔をしてからディランを引っ張って行った。
「カズヤ、監督が怒るかも知れないぞ」
 そう言うマークの犬耳はしゅんと垂れ下がっていて、何だか飼い主に叱られた犬みたいだ。
 きっとマークが本当に犬だったらゴールデンレトリバーのような上品な犬種に違いない。
「大丈夫さ、監督は気が利く人だから」
 ハニーブラウンの髪を優しく撫でながら子供に言い聞かすような声色で言う。
 心配しながらも嬉しそうに左右へと動く尻尾にマーク自身は気が付いていないようだ。



「あれ、マーク犬耳が治ったのか? 良かったな!」
 その日の夕方、犬耳も消え食堂に姿を現したマークを見てチームメイト達は安心した表情を浮かべた。
「カズヤ、いったいどうやって治したんだい? まさか王子様のキスなんて言わないよね?」
「あはは、当たらずとも遠からずかなぁ」
「カズヤ!」
 茶化すディランに真実を告げる訳にも行かず遠回しな言い方をする。
 それでも顔を真っ赤にして怒鳴るマークには隠すから怪しまれるのだと耳打ちをした。
 ……やったら治りましたなんてとても言えないよね。



end

一之瀬とマークが医務室で致していた所はまた別の話で。


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