一マクでデート話。



明日も君が好き



 今日はカズヤと二人でライオコット島を回る約束をしているため、ジャージではなく私服を纏って寮を出る。
 待ち合わせの時間より随分と早く家を出たつもりだが、目的地には予想通りカズヤが先に到着していた。
 家や寮ではなく街中で待ち合わせをする場合カズヤはいつも俺より先に来ている。
 たまには俺が先に着くようにと早く家を出てもそれは同じで、五分早く行けばカズヤは十分早く着いてるし、十分早く行けばカズヤは十五分早く着いているのだ。
 メールで出発時間を教えている訳でもないのに、ひょっとしたら一時間くらい前から着いてるんじゃないか。
「カズヤは早すぎるよ。待たせてるみたいで悪い気がする」
「気にしなくていいって。マークだって待ち合わせ時間より早く来てるんだし」
 結局今回は予定より三十分も前に集まってしまった。
 目印にしていた噴水の縁に座りカズヤに文句(というのもおかしな話だが)を言うも相変わらずケロッとしている。
「それにマークを一人で待たせてたら知らないヤツにナンパされそうで心配なんだ」
「ナンパって……」
 女子じゃないんだから余計な心配だと言おうとしたが、以前そういう事があったので否定が出来ない。



 エリアを移動するために巡回バスに乗ったが、観光客や何やらで優先席以外の席は既にいっぱいになっている。
 開いているとは言え優先席に座るのもためらわれたし、長時間乗るつもりでもないので立っている事にした。
 次のバス停に着くとまた沢山の人が乗車して来たのでスペースを空けるために場所を詰める。
 すると窓側に居たカズヤが俺の腕を引いて立っていた位置を入れ替えた。
「マーク、危ないから窓側に立って。痴漢とか居るかも知れないだろ」
「居ないと思うぞ」
 俺は中性的な外見でもないし女に間違われそうな服装をしている訳でもない。
 むしろカズヤこそアジア人らしい童顔と小柄な体躯がかわいい部類に入るから危険だろうと言いたいくらいだ。
「それにこんな場所で男に痴漢するやつなんて……」
「知り合いの少ない外国だからって変な気を起こすヤツも居るだろ」
 ああ言えばこう言うカズヤにだんだん呆れて来たが、言う事は最もなのでグゥの音も出ない。
 こうやって最後にはいつも丸め込まれてしまうのだ。



 イギリスエリアでバスを下車するとカズヤが手を絡めて来た。
 少し迷ったがここなら知り合いとばったり会う可能性も低いだろうと考え握り返す。
 ここがもしアメリカやジャパンやイタリアのエリアだったらそうは行かないのだが。
「カズヤはちょっと過保護すぎるよ」
 歩きながら横に居るカズヤに言う。
 俺は女じゃないし柔らかな胸も細い腰もない。それ所か脚などは結構筋肉質なほうだ。
 そりゃあ街中には同性愛者も居るかも知れないが、行く先々で出くわす可能性は低いだろう。
「そんな事ないって。マークは自分が思ってるより魅力的なんだから」
 またそんな恥ずかしい事を言う。
 カズヤのこういう所はわざとなのか天然なのかわからないから困る。
「多分ショーンも君の事が好きだよ」
「まさか」
 具体例として出されたチームメイトの名をすぐさま否定する。
 ショーンは男だし女性にはすごく優しいから同性を恋愛対象に含めているとは思えなかった。
「本当に綺麗な人には男とか女とか関係ないんだよ」
「買い被りすぎだよ」
 いい加減に恥ずかしくなったきたので目を逸らして俯く。
 カズヤは残念そうな声を出してから俺の機嫌を伺うように顔を覗き込んで来た。
「マーク、こっち向いて」
「なに……んっ!」
 振り向くと同時に顎を掴まれキスをされる。
「んぅ!? んんっ――」
 軽く唇を合わせるだけかと思えば舌まで絡ませて来たので焦ってカズヤの胸を叩く。
 流石にここまでやれば周囲に「アメリカでは挨拶です」と開き直るのも不可能だ。
「こんな所でなんて事をするんだ!」
 しばらくしてやっと唇を離してくれたカズヤの頬を軽くひっぱたいて怒鳴りつける。
 きっと今の俺の顔は羞恥やら酸欠やらで真っ赤になっているに違いない。
「マークは俺の物って宣言?」
「バカっ!」
「大丈夫だよ、きっと『アメリカ人はスキンシップ過剰だなぁ』としか思われてないから」
「カズヤはアメリカ人には見えないだろ!」
 ここぞとばかりにアメリカを主張して来るカズヤは恥ずかしがっている様子もない。
 自分ばかりが振り回されているのが悔しくて、カズヤに背中を向け不機嫌丸出しで歩き出す。
 俺がまた絆されるのに三分と掛からなかったのは毎度の事だ。



end

一之瀬は天然紳士だったらいいなとか。

title by:猫屋敷


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