マークと一之瀬とイナズマジャパン。



露天風呂に行こう



「ロテンブロ?」
 カズヤの口から発せられた聞き慣れない単語に首を傾げる。
「秋から聞いたんだけどね、ジャパンの宿舎にあるらしいんだ。天然の温泉でとっても気持ちいいんだって」
 どうやらカズヤの説明によるとロテンブロとは野外に設置されたバスルームの事らしい。
 日本人はそれが大好きで、合宿などではみんなが裸になって一緒に入るとか。
「入りに行ってもいいらしいから一緒にどうかな? マークは露天風呂なんか入った事ないだろ」
「でも野外で裸になるなんて……」
 カズヤの前で裸になるのはさほど恥ずかしくないのだが、野外というのが問題だ。
 スパになら行った経験があるけれどそこではみんな水着を着ていたし。
「大丈夫だよ。垣根があって外からは見られないし、イナズマジャパンの練習中に借りるから彼らが入って来る心配もない」
 人除けもバッチリだよ、とカズヤはウインクをする。
 俺が野外だけでなく他人の前で裸になる事に抵抗があるのを理解してくれているのだろう。
 そこまで考えてくれているのに断る訳にも行かず、翌日にジャパンの宿舎へと向かう約束をした。



 宿舎に着くとカズヤは中に居た鼻の大きいおじさんに挨拶をしてから俺を浴場へと案内する。
 暖簾をくぐった先にある広い脱衣所にはカーテンのように個々を遮る物がなくて、どこで服を脱げばいいのかわからずに視線を泳がす。
 カズヤを見るとさっさと下着まで脱いで裸になっていて、ためらっている自分が女々しく感じ思い切って服を脱いだ。
「タオルをこうやって巻けば恥ずかしくないよ」
 所在なくしていた俺にそう言ってからカズヤはフェイスタオルを腰に縛る。
 それを真似してみた物のやはり恥ずかしくて、野外ならばせめて水着くらいは着たいと思った。
「さ、入ろっか」
 扉を開けた先にある浴場には卵が腐ったような独特の臭いが充満していて、思わず顔をしかめてしまう。
 その反応が面白かったのかカズヤがくすりと笑った。
「軽く身体を流してから入ってね。タオルは湯船に浸けちゃダメだよ」
「わかった」
 言われるままに桶へ湯船を汲んで汗を流してから、想像していたよりも熱い湯船に身体を沈める。
 肩まで浸かって背中を浴槽に凭れると全身から力が抜けてだんだん気持ち良くなってきた。
 上を見ると爽やかな青空が広がっていて、カズヤが入りたがっていた理由が少しだけわかった気がする。
「ディランも連れて来れば良かったな」
「ふふっ、彼なら大喜びしそうだね」
 ディランがここに居ればきっとこの広々とした浴槽で泳ぎ出すんじゃないだろうか。
 そんな話をしている内に何やら脱衣所が賑わって来た事に気付きそちらを見る。
「一之瀬! 一緒に入ろうぜ!」
 元気な声が響いたかと思うと浴場の扉が勢い良く開き、イナズマジャパンのキャプテンであるエンドウが姿を現した。
 予想外の出来事で呆気に取られている俺たちをよそに、入口からはぞろぞろとジャパンのメンバーが入って来る。
「あれ? お前は確かアメリカの……」
 タオルを腰に巻いて浴槽に近付いて来たエンドウが俺の顔を見て不思議そうな声を出した。
「ああ、彼は俺のチームメイトのマークだよ」
 カズヤが横から会話に入り俺を紹介する。そう言えば以前エンドウに会ったという話はしていなかった。
「なんだ、一之瀬の連れて来た友達って土門かと思ってた」
 どうやらカズヤは知り合いを連れて来る程度の事しか告げていなかったらしい。
 エンドウはアスカに会いたかったのだろう、少し残念そうな表情を浮かべていた。
「まぁいいや。背中流しっこしようぜ」
 手を目の前に差し出して来たエンドウの意図が汲めず、どうすべきかとカズヤに視線で尋ねれば「上がろう」と返される。
「日本ではこういうのを『裸の付き合い』って言うんだよ」
 よくわからないがそういうルールなのかと思い浴槽から上がれば、メンバーが一列になって互いの背中を洗い出した。
 生真面目なイメージが強い日本人にも意外とフレンドリーな所があるんだな。
 その後も小さい少年がみんなのタオルを奪ってマネージャー(隣に女風呂があるようだ)に怒鳴られたり、女風呂を覗こうとしてまた怒鳴られたりと騒がしかった。
 他人の前で裸になるなんてとんでもないと思っていたが、たまにはこんな賑やかなのも悪くない。
 また機会があったら今度はディランとアスカも連れて来よう。



end

まだ親しくない頃の話なのでマモルではなくエンドウ呼びです。


「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -