南涼が同居してます。



ホットココア



 冬真っ只中な二月の初頭。こんな寒い日は寒がりな俺じゃなくても外出なんかしたくない。
 暑がりの風介もそれは同じようで、炬燵に潜りながらアイスを食うという矛盾した行動を取っている。
 今日は学校もないし部活だって冬季休暇だから家で炬燵にくるまってゴロゴロしてやるんだ。
 そう考えていたのだが風介の「アイス切れた」発言により冷蔵庫を覗くと、アイス所か食品が一つもなかった。
 あるのは夏に使ったかき氷のシロップとワサビとかの調味料だけ。
「おいおい、今日の昼飯すらないぜ。お前アイス買って来るんならついでに買い出しもして来いよ」
「なぜ私が。お前が飢えようと私には関係ない。アイスならコンビニで売っている」
「どうせ出掛けるんならスーパーまで行けよ!」
「面倒だ断る」
 どうやらコイツは断固としてアイス以外の物に手間を掛けたくないようだ。
 不毛な言い争いが三十分ほど続いた結果、根負けしたのは俺のほうだった。
「じゃあ俺も行くからお前もスーパーまで来い! そうしたらアイスも二箱買ってやるよ! どうだ!」
「む……いいだろう」
 俺の提案に風介は渋々ながら了承する。やはりコイツを釣るにはアイスが一番だ。



 買い物も終わった帰り道。俺はでかいビニール袋をぶら下げているのに風介は自分のアイスしか持っていない。
 それは毎度の事なのでもやは文句を言う気も起きないのだが、端からだと俺が風介を甘やかせているように見えるらしい。
「あぁもう、指が冷てぇ」
 荷物を持つほうの手が特に冷たく、左右に持ち直したりポケットに入れたりして気持ち程度に暖を取る。
 そんな事をしていると道端にある自動販売機が目に入り足を止めた。
「なんか温かいコーヒーでも買って行こうぜ。奢ってやるよ」
「……私はいい」
 風介も寒いだろうと気を利かせたのだが、珍しく遠慮でもしているのか小さく首を振る。
「あとで欲しいっつっても知らねぇぞ?」
 とは言いつつも風介が飲めるようにと苦いコーヒーではなく甘いココアを選ぶあたり、やっぱり俺はコイツに甘いんだろう。
 荷物を腕に掛けココアの缶を開けると中から一気に湯気が溢れてきて視界的にも暖かくなる。
 甘いそれを何度か口に含んだあたりで横に居る風介を見ると、何だか自分だけ暖を取っているようで罪悪感が湧いてきた。
「飲めよ」
「いらない」
 缶を顔の前に差し出しても風介は受け取らない。
「何でだよ、ココア好きだっただろ? ほら飲めって」
「熱いからいらないと言っているんだ!」
 しつこくココアを勧めると苛立った風介が声を荒げた。
 それでやっと思い出したが、コイツは温かい飲み物はぬるくなってからでないと飲めない猫舌だったんだっけ。
「あー、そうだっけか」
「…………」
 頭を掻いていると無言になった(もともと無口なほうだが)風介から不機嫌オーラが漂ってくる。
 このままだとバツが悪いので俺は何とか風介の機嫌を取ろうと策を練った。
「手、冷えてるだろ。貸せよ」
 返事を待たず荷物を持っていないほうの手で風介の手を握り、自分の上着のポケットにそのまま突っ込む。
 あからさまに嫌そうな顔をした風介が手を離そうともがくが、ぎゅっと握り締めて阻止した。
「家に帰ったらぬるいココア作ってやるよ」
「……お湯じゃなくて牛乳で作れ」
「はいはい」
 どんな時でも命令口調なのは少し腹立たしいが、やはり食べ物で折れるあたりは風介らしい。
 気が付けば冷たかった風介の手は俺より熱くなっていた。



end

あの繋ぎ方かわいいですよね。


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