大学生な豪炎寺と風丸。



君には勝てない



 豪炎寺が車の免許を取ったらしい。
 俺がそれをメールで知った時の心境はすごいとかめでたいとかではなく「まだ取ってなかったのか」という物だった。
 なぜなら俺も豪炎寺も現在は大学四年生で、俺は高校を卒業する時にすでに免許を取っていたからである。
 豪炎寺はと言うとどうやらサッカーと医者の勉強の両方で忙しく、なかなか自動車学校に行くヒマがなかったようだ。



「免許取るって言ってくれたら学科くらい教えたのに」
「自分だけの力で取りたかったんだ」
 ドライブという名目で豪炎寺が一人暮らしをしているマンションへ呼ばれ、久しぶりに顔を合わせる。
 久しぶりと言っても一週間程度の話だが恋人という関係を考慮すれば過言ではないだろう。
 部屋でしばらく話し込んでから本題である車の話題になり、マンションの一階にある立体駐車場へと案内された。
 エレベーターから現れた豪炎寺の車は初心者には勿体ないような高級車である。テレビとかで芸能人が乗ってる黒い外車だ。
 ちなみに初心者マークはどこにも付いていない。付けろよ、違反だぞ。
「すごい車だな。さすが医者の子」
「嫌な言い方をするな。金は収入が落ち着いたらちゃんと父さんに返す」
 車を褒めたつもりで言ったのだが本人は不満だったらしい。軽く謝りつつ先に乗った豪炎寺に指示されるまま助手席へと座る。
「広いだろう」
「ああ。俺の軽とは大違いだ」
 俺の車(正しくは親のだが)は女の人が好みそうな可愛らしい軽自動車だ。大の男が乗るには少々狭い。
 その点この車は頭上や足元にも余裕があり広々としていて身を縮めなくてもしっかりと座れる。正直羨ましい。
「これならいつでもカーセックス出来るぞ」
「あのなぁ」
 相変わらず豪炎寺の冗談はあまり笑えない。冗談ではないのかも知れないがそう思いたい。
 第一こんな高級車を精液やら何やらで汚すなんて勿体ないし。いや、それ以前の問題か。
 そんな会話をしている間に車は発進して、どこへ向かうのかと思えば窓の外には見慣れた懐かしい風景が流れている。
 方角的には雷門町へ向かうのだろうが、わざわざドライブに誘って行くような場所だろうか。
「……少し前にお見合いの話が来たんだ」
 発車してからは集中しているのか黙っていた豪炎寺が急に話し掛けてきた。
 今時お見合いなんてあるんだな。それを敢えて俺に報告するという事は別れ話だろうか。
 俺だっていい大人が何時までも同性と付き合ってる訳には行かないと思う。
「どんな人だったんだ」
「知らない。写真も見ずに断った」
 社交辞令として聞いたのだが、返ってきたのはお約束の無難な賛辞ではなかった。
「おいおい、いいのかよ」
 お見合いというからには良い所のお嬢さまだろうし、そんな簡単に断って平気なのだろうか。
「ちゃんと『交際中の相手が居ます』と理由を付けたら相手も納得してくれた」
「ならその恋人を連れて来いとか言われなかったのか?」
「だから今日はお前を呼んだんだ」
「……へ?」
 待て、話の繋がりがわからないんだが。
「今から実家に行って父さんに会って貰う」
「待て待て待て! まずいだろうそれは! 俺は男だし、誰か女の人に頼んだら……」
 実家って、それは結婚を前提に付き合っていますと言うようなモンだろう。無理だろ同性は。
 豪炎寺はモテるから演技に付き合ってくれる女性くらい簡単に見付かるだろうに。
 そう言ってもコイツは頑なに意思を変えず、実家まで来いと訳のわからない事を言う。
「父さんに風丸を認めさせないと意味がないんだ」
 今までフロントガラスのほうを向いていた豪炎寺が一瞬だけこちらに顔を向けた。
 それがあんまりにも真剣な表情だった物だから、俺はもう何も言えなくなってしまって。
「……どうなっても知らないからな」
「なに、責任は取るぞ」
 ……責任って、妊娠したんじゃないんだから。
 もはやツッコむのもアホらしくなって俺は目を閉じた。
 あの頑固そうなお父さんをどう説得するつもりなんだろうな、このバカな恋人は。



end

最大の難関は風丸よりも豪炎寺のお父さんかと。


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