「そこに座りたまえ」
「………はぁ」
びしっと指さされたのは久秀様の自室の畳の上。
何やら不機嫌そうに呼び出され俺はとりあえず大人しく従う。
「…何か言いたいことはあるかね。」
「はぁ………何のご用でしょう?」
「…愚劣愚劣。」
すごく当たり前な事を聞いたら蹴飛ばされてしまった。
久秀様に使えて早十数年。当時から良い扱いはされなかったけれど恋仲になってからは余計非道くなったような気がする。
「久秀様」
言ってくださらないと分かりませんよ、と言っても僅かに頬が染まるだけで何も答えは返ってこない。
「久秀、様」
無言の攻防戦。
以前お贈りした扇をぱちりぱちりと鳴らしながら時折流し目で私を見る久秀様。
「…ひさ、」
じぃと見つめていた私に、折れた久秀様が何やらぽつりと呟いた。
「………卿、とは、久しぶりに会うな。」
「はい、」
「…………………卿は」
ここ数日、久秀様の命で遠く、奥州の方まで足をのばしていた。今朝方戻り報告に伺っただけで今日は後処理に追われ、こうして2人きりになるのは久方ぶりだった。
「………………………………
くても、平気なのかね…。」
「ひさ?」
聞こえてきたのは蚊の鳴くような声だった。けれど唇の動きで読みとれる。
私に会えなくとも平気なのかね、と。
「ひさ、寂しかったんですか?」
「……さ、寂しいなど…」
「寂しかったんですね。」
ひさに会えなくて平気な訳ないのに。
俺が可愛いなぁと笑うと、ひさの顔は真っ赤になった。そのまま開き直ったひさは八つ当たりに俺の足をげしげしと蹴る。
「卿、はっ、私の、色、だろうっ!?何か悪いことでもあるのかね!?」
「痛い痛い。悪くなんて無いですよ?嬉しいんです、ひさ。」
「……………………………。」
「俺もひさに会いたかった。」
「………嘘を、」
「本当ですって。」
足を崩しどうぞ。と言うと最後に一度大きく蹴飛ばされ、ひさは私を睨みながら膝の中に。
あぁ、これだからどんな理不尽な扱いを受けても許せてしまうのだ。
「ひさひで」
ぎゅうと抱き締めれば久方ぶりの体温と香りに胸が熱くなる。
「好きです。大好き。」
「………名前…」
「俺の居場所はひさの隣だけですから」
「…当然だ」
「ひさ、」
耳元へ寄せられた唇が息をもらす。卿の隣は誰にも渡さんよ、と、小さな声が聞こえた。
大好きって100万回言って!!!
(好き、大好き、愛してる)
(百万でも千万でも一億でも)
(すべて、あなたの望む通りに。)