短編(♂) | ナノ

長編《可愛いは正義。》より移動


あいつは、根本的には優しくて良い奴だと思う。
後輩に優しくて、自分より小さい者や弱い者は守ってやらなければと思っている奴だ。

「…あ、あの名前…」
「………………。」

しかし俺たち同級生には氷より冷たい。
普段は毒舌でグサグサと心に鋭利な刃物で傷つけるドSでまだマシだが、キレるとヤバイ。

「す、すまなかった名前…!」
「………………。」

今日も小平太が名前の機嫌を損ねてしまったらしい。
名前の部屋で、小平太が必死に謝っているが名前は小平太の存在などまるで見えないとでもいうように本を読んでいる。
名前はキレると、相手が泣こうが喚こうが綺麗に無視するのである。俺も何度か受けた事があるが、真剣にへこむ。
無視され続ける小平太はだんだん涙目になっていく。しかし名前が小平太の方を見ることはない。

「……っ、名前っ…!ごめんなさい…っ!」

ついにぼろぼろと小平太が泣き出した。ごめんなさいと何度も繰り返しながら畳へ土下座する小平太。……憐れだ。

「………伊作、小平太の奴何したんだ?」
「…それが一番やっちゃいけない事でね、」

いけどんで後輩と遊んでいて名前のお気に入りの子に怪我させたらしいんだ。
そう言って伊作は複雑そうに笑う。

「……それは小平太も悪いな…。」
「稚児趣味の留さんらしいね。」
「誰が稚児趣味だ!」
「ちょっとほっぺを擦りむいたんだよ。絆創膏一枚で大丈夫だったけどね。」

なるほど、それで後輩(というか、小さい者)大好きの名前の逆鱗に触れてしまったと言うわけか。
小平太が泣いていても名前は変わらず本を読んでいる。
素晴らしく神経の太い奴だ。俺はきっと小平太が泣きだした時点で許す。

「…失礼します。」

そこへ、少年特有の少し高い声がして障子が開いた。

「あぁ、乱太郎。大丈夫か?」
「はい、ぜんぜん平気です!」
「「こんにちはー!」」

元気なは組の三人組が部屋へ入ってきて、俺たちと小平太を見て目を丸くする。
どうやら小平太が怪我させたのは乱太郎らしい。

「どうしたんですか?七松先輩。」
「怪我させてごめんな!」

驚く3人へ向かって、小平太はスライディング土下座した。…痛そうだな。

「え、え?」
「私が加減出来なかったせいで…!」
「あ、気にしないでください!ちょっとすりむいただけですから!」

わたわたと乱太郎が慌てる。きり丸としんべヱがぽかんとした顔で2人を見つめていた。

「……七松先輩どうしたんっすか。」
「気にしなくて良いよ、きり丸。」

にっこりと優しい笑みを浮かべた名前が本を置いて立ち上がる。

「さ、お団子食べに行こうか。」

そして俺たちには絶対見せないような笑顔と甘い声で3人へそう声をかけた。

「あ、はい。でも七松先輩は…」
「行こう、乱太郎。」

名前の事をよく知っているきり丸はすでに状況を理解したのか、乱太郎を引っ張り、しんべヱの手を引いて部屋を出て行く名前の後を追う。
ぴしゃりと名前によって障子が閉められる。部屋には俺と伊作、そしてまだ泣いている小平太が残った。
………ここまで冷たく当たらなくてもいいのではないだろうか。
何も言わなかった名前の背に、俺はため息をついた。





名前が戻ってきたのは、夕方頃だった。
乱太郎たちと楽しく遊んできたのかとても上機嫌で食堂に来た。
小平太は多分まだ名前の部屋で泣いている。

「…お帰り名前。」
「ただいま。」

伊作と同じ定食を頼んだ名前が俺たちのいるテーブルへと来て、長次の隣へ座る。
いただきますと行儀良く両手を合わせて食べ始めた名前は、小平太の事など気にもかけていないのだろうか?
しばらく俺たちは無言で箸を進めていた。
かける言葉が見つからないからだ。名前に何をいったら良いのか分からない。

「……………飴。」

そう思っていたが、ぼそりと長次が一言呟いた。
食べるのが早い名前は最後の漬物を口へ運びながら小さく頷いた。
…名前は割りと長次には甘いのだ。

「ごちそうさま。」

先に戻るよ。と言って名前は席を立った。
その横顔が少し優しそうに見えたので、俺はまたため息をついたのだった。


余談だが、その後、赤い目で嬉しそうに団子を頬張る小平太が目撃されたそうだ。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -