その日突然かかってきた電話はドイツからだった。
珍しいこともあるもんだと用件を促せばドイツ宅に来て欲しいとの事。
なんでもプロイセンが風邪をひいたらしい。
「風邪なら医者を呼べ。」
『もう呼んだ。安静にしていればいいそうだ。』
「なら俺が行く必要はないだろ。」
『そうなんだが…。俺達は明日から世界会議で留守にするんだ。』
「…あぁ。」
『病人を一人ではおいておけないだろう?』
「……分かったよ。」
頼む、と真剣な声で言われ俺はため息混じりに了承した。
まぁプロイセンとは仲良いしどうせ暇だから構わない。
そんなこんなで、ドイツの家に到着〜。
「お邪魔しまース。」
中に入っても誰もいない。
どうやらもう出かけてしまったようだ。
「…とりあえずギルの様子を見に行くか。」
階段を上がろうとしたら二階でがたがたっと音がした。
慌てて階段をかけあがる。
「ギル!?」
行き慣れたギルの部屋の戸を開けると床につっぷしてるギルがいた。
「ギ、ギル?!」
駆け寄って抱き起こすと熱っぽい瞳が僅かに開く。
「…………名前…?」
「あぁ、見舞いに来たぜ。」
ぼんやりとした意識のプロイセンは現実が認識できていないらしく弱々しく笑って呟いた。
「………は、はは…ひとり、楽…し…すぎ……ぜ…」
カクリと力が抜けギルは気を失ってしまう。何が楽しすぎるだ。
「…今は一人じゃないだろ、ばか。」
聞こえないだろうとは思いながら俺は呟いて、ギルを抱き上げベッドへ入れると、お粥を作りに部屋を出た。
お粥を作って薬を出して。
精のつく飲み物でも作ろうと冷蔵庫をあげて思わず感嘆の息を吐く。
さすがローデ。材料の品揃えが半端ねぇ。
いそいそと材料を出して包丁を握る。
「………名前」
「うおっ!?」
しかし突然背後から聞こえた声に俺は飛び上がった。
振り返ると毛布にくるまったギルがいた。
「あぁ、目が覚めたのか。ダメだよ安静にしてなきゃ。」
包丁を置いてギルへ走りよる。
「……なん、で…」
立っているのも辛そうなギルの腰へと腕を回しとりあえずソファーへ座らせる。
「………なんで、ここに…」
「ギルが一人だって言うから。」
病気の時はひとり寂しいだろ?
そう言って笑いかけてやると素直じゃないギルは俺へと抱き着いた。
「…ふ、ん。ひとり楽しすぎ…だぜ…」
言葉と裏腹に力の込められる腕。
俺も抱き締め返してやる。
ぐずぐずと泣いているらしいギルにどうしようもなくて、俺はしばらく銀色の髪を撫でながら毛布にくるまれたギルを抱き締めていた。
「落ち着いた?」
「…ん。」
泣き止み、呼吸の落ち着いたギル。
しかし部屋へ行こうと言うと嫌だと首をふった。
「…名前のそばがいい…」
可愛らしい主張に思わず顔が緩む。
だが病人なのだ。ソファーに寝かせておくわけにもいくまい。
「ベッド行こう、ギル。」
「……名前が一緒なら、」
ソファーに座った俺の膝の上でお姫さまだっこ状態のギルは俺の首へ両腕を巻き付けてそう呟く。
…あー、ヤバイ。可愛すぎだギル。
「じゃあ一緒に寝てやるから。とりあえずお粥食べてな。」
コクりと頷いて口を開けるギル。
俺は吹いて冷ましたお粥をギルの口に運ぶ。
…なんか気恥ずかしいな。
それを何度も繰り返してギルは器を空にした。
「ほら薬。」
カプセルのそれを見せるとブンブンと首を振るギル。
こらこら、そんなことしたら…
「…〜〜〜〜〜…」
案の定目を回したギルにため息をつく。
薬は飲んでもらわなければ困る。
仕方ないな。
「ギル。」
軽く水と薬を口に含む。
何をするのか分かっていないギルに、俺は深く口付けた。
「!!…んっ……っっ…」
口を開けさせ薬を流し込む。
所謂口移しと言うやつだ。
こくりこくりとギルの喉が上下する。
ついでにと熱いギルの口内を楽しんだ俺は真っ赤になっているギルをやっと解放した。
「…な、なっ…!」
「じゃあベッド行こうか。」
信じられないと言う表情で口をぱくぱくさせるギル。
しかし俺はそんなギルにお構いなしに立ち上がる。
もちろんギルをお姫様抱っこで抱き上げて。
「!お、下ろせっ…!」
「病人は大人しくしてな。」
抱き上げられるのは屈辱なのか、はたまたただ恥ずかしいだけかギルが俺の肩を叩いて抗議する。
しかし俺が歩き出すと揺れて怖いのかギルの腕は俺の首へと回った。
「ギル可愛いー。」
「ぅ、うるさぃ…」
照れるギルを楽しみながら階段を登った俺はギルの部屋へ入る。
ギルお気に入りのダブルベッドへギルを寝かせた。
「あ、着替えた方がいい?」
毛布をとって気付いたが、ギルのパジャマは汗で濡れていた。
これでは悪化してしまう。
慣れたもので、クローゼットから着替えを出しバスルームでタオルを濡らしてくる。
「はい脱いでー。」
ぱっぱと服を脱がせ体を拭く。
そして手際よく着替えさせて、はい終わり。
「あとは安静に、ね。」
持ってきた冷え○タをギルのおでこに張り笑いかける。
「……名前、」
布団を被ったギルにクイと袖を引かれた。
照れてるギルはぼそぼそと何か呟く。
「ギル?」
聞き返すとうー、と唸ったギルが俺を睨んだ。まぁ、目が潤んでるから全然怖くないけどね(笑)
「…名前も、ねろ!」
ぎゅうっと袖を引かれ、俺は笑いながら布団に入った。
ギルに腕枕してやりながら抱き締める。
「風邪うつるかもね。」
「……ぅつしてやる」
「ははっ、ギルが元気になるならそれもいいかも。」
よしよしと頭を撫でてやるとギルは嬉しそうに目を閉じる。
しばらくすると規則正しい寝息が聞こえてきて、俺は誘われるように目を閉じた。
「……なんですか、これは。」
「わ〜、仲良しだね!」
「…しまりの無い顔だな。」
「まぁまぁ、可愛いじゃないですか。」
その後、世界会議から帰ってきたドイツたち4人が見つけたのは、抱き合って幸せそうに眠る名前とプロイセンの姿だった。
ひとり(病気の時は)
(誰かが恋しくなるもの)
おまけ
「…38度。これは完全に風邪ですね。」
「…ま、じ…?」
数日後、プロイセンの部屋のベッドに寝ているのは名前だけになった。
「ふっふー、俺様復活!」
「静かにしなさい、このおバカさんが。」
「…すまん、名前。」
「大丈夫?」
「…ぅん、だいじょぶたよ、多分…」
ゴホゴホと咳き込む名前にプロイセンが水を差し出す。
「早く元気になれよ、名前!」
「…あぁ。」
結局、プロイセンに風邪をうつされプロイセン以上に悪化させてしまった名前だった。