短編(♂) | ナノ


うたた寝もしたとはいえ、流石に完徹は辛かった。朝礼で思わず欠伸を噛み殺すと副長に運悪く見られてしまった。

「おい名字!朝礼中に欠伸たぁ良い度胸じゃねぇか。」
「うおっと、すんません。噛み殺したつもりがバレましたか。」
「おぃ名字、土方さん噛み殺すなら俺のサド丸19号を貸してやるぜぃ」
「てめえ黙ってろ総悟!」

朝っぱらからテンション高いなぁ。あ、やべ、また欠伸出た。

「ほんっとうにいい度胸してやがるな!お前また夜遊びか!」
「ちょっと副長、俺のお母さんですか。」
「そうだぞトシ、名字だって夜遊びの一つや二つ…」
「局長、乗らないでください。名前も、今日は僕と行動だよ。」
「はは、すまんすまん。」
「山崎ぃ、ちゃんと名字見張っとけよ!」
「はいよっ!」
「じゃあ、みんな今日も一日頑張ってくれ!解散〜。」

そんな馬鹿騒ぎして朝礼は終わる。そうか、今日は山崎と一緒か。

「ほら、行くよ名前。」
「あいあい。」

俺は欠伸を噛み殺しながら、山崎と一緒に支度を始めた。






夜遊び……。本当にそうなのだろうか?
僕は執務を終え、玄関が見える部屋でそわそわしていた。
もう隊士達も各々の仕事を終え帰ってきている。だが名字はまだだ。
聞きたい。
昨夜のあの温もり君だったのかと。外れていたらとても恥ずかしいことになるし、聞いたからと言ってどうという訳でもない。いや、きっと情けない寝言でも聞かれてしまったのだろう。口止めくらいはしなければ。
僕がそんなことを考えながらいると、間延びした声が聞こえてきた。

「ただいま〜っと。」
「お疲れ、名前。」
「おう。ザキもお疲れさん。」
「じゃあ僕報告書出してくるね。」
「あぁ、頼む。俺寝る。」
「うん、おやすみ。」

一緒にいた山崎がいなくなるのを見て、欠伸をしている名字の所へ。
相当眠いのか、僕が近寄っても彼は気づかない。

「……名字」
「…?伊東先生?」

大きな欠伸を噛み殺しながら名字は敬礼する。

「どうかなさいましたか」
「…少し話がしたい。構わないかな?」
「はぁ…。途中で寝る可能性大ですが…。」
「…僕の部屋へ。」

のたのた動く名字を連れて自室へ戻る。もう寝るつもりだったのだから自分の部屋でも僕の部屋でも構わないだろう。

「座りたまえ。」
「はい。」
「……単刀直入に聞く。」

ぴしっと出来る限り背筋を伸ばす名字と向き合って座る。

「…昨夜、僕の部屋にいたのは君か。」
「………え、と」
「…昨夜ずっと僕の手を握っていたのは君かと聞いている!」

顔が熱くなる。心臓の音がうるさくなって、ついつい大きな声になってしまった。
名字はそんな僕に驚きながら、小さな声ですみませんと呟いた。
それは肯定か?

「…帰ってきたら先生が魘されていたので、つい…。」
「……やっぱり君だったのか…」
「すみません。」
「…いや、謝らなくていい。」
「ですが…」
「むしろ…僕が…礼を、言いたい。」
「先生…」

口止めをするつもりじゃなかったのか。
僕は勝手に出た自分の言葉に内心戸惑っていた。

「…悪夢だ。すべての人間が僕の敵だ。誰も僕を認めてはくれないし傍にいてもくれない。」
「……」
「そんな悪夢にずっと苛まれてきた。だが昨夜は…」

眠いと言っていた奴はどこへやら。真剣な表情で僕を見つめている名字に不覚にも胸が高鳴った。

「……よく、眠れた。君のおかげだ。」
「先生……では、俺は先生の役に立てたんですか」
「そんなものじゃないさ。君は僕の救いに近い。」

名字の目がわずかに見開かれる。そして一拍おいて包み込むような微笑みに変わった。

「光栄です。」
「名字…」
「はい、」

なんですか、と言いながら名字の手が僕の頬に添えられる。

「…………こんや、も…」

一緒にいて欲しい。
伝えたい言葉は、音にしなくても名字には伝わったようだった。優しく引き寄せられ抱きしめられる。
男色は局中法度なのに…と頭の隅でぼんやり考えた。

「先生………鴨太郎さん」
「っ!………名前……」
「はい。」

温もりに包まれ、これまで蓄積してきた痛みが嘘のように消えていく。名前、名前と何度も彼を呼んでその背に腕を回すと、よりいっそう強い力で抱きしめられた。


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