（学パロ）








その日、政宗はかなり機嫌が悪かった。
コツコツと長く綺麗な指先で机を叩きながら教室の戸を睨み付けている。

「………竜の旦那どうしたの？」
「おぉ佐助！」

政宗のせいで空気のはりつめる休み時間の教室へ、何時ものごとく早弁の為に幸村の弁当を持ってきた佐助が政宗を見つけ幸村へ呟く。

「ふむ、ほうはら名前ほのがひらっはらないよう…」
「口に物入れたまま喋っちゃダメって言ってるでしょーが！」
「shut up！！黙れ猿！！！」

ふごふごと早速弁当を食べ始めた幸村が答え、これまた何時ものごとく佐助が怒るとそれに怒鳴る政宗。
理不尽だと佐助が呟けば政宗の不機嫌な視線に貫かれる。

「………なんなのもぅ。」

そう漏らしながら教室を見回し気付く。
なるほど、原因はあれか。

「…さっき旦那、名前が来てないって言ったんだね。」
「うむ、そう…」
「うるせぇって言ってんだろ犬！」

ひどいでござる！
キャンっと憐れっぽく鳴いた幸村はやけ食いとばかりに弁当を掻きこむ。
そんな主にお茶を差し出してやりながら佐助はため息をついた。

政宗の不機嫌の理由。
それは政宗の恋人である名前がいないから。
校内きってのバカップルな片割れが、どうやら学校へ来ていないようなのである。

(…もー、さっさと来てよ名前ちゃん。)

そう思いながらまたため息をついた時だった。
廊下の向こうから男子の声が近づいてくる。そしてバタバタという大きな足音ともに教室の戸が勢いよく開いた。

「おっはよー！」
「遅い！！！」

颯爽と現れた救世主にクラスメイトが安堵の息を吐くが、間髪入れずに怒鳴る政宗にまたざわざわと緊張が走る。

「あ、おはよう政宗。」
「おそようだ。このバカ名前が！」
「え、なに怒ってんの？」

キレる政宗に目を白黒させた名前はとりあえずごめんねと謝った。

「……なんで電話出なかった？」

謝られ、それ以上怒鳴れなくなった政宗は拗ねたように名前を見上げる。

「……朝からメールも電話もいっぱいしたのに…！」
「(うっ…！)ごめん気付かなくて…」

寂しさからか悔しさからか潤む政宗の瞳。
加え上目遣いと言うコンボ技を受けた名前はあえなく撃沈した。

「不安にさせてごめんな？」

そう言って政宗を抱き締める。

「…二人とも、ここ教室。」

呆れたように佐助が呟くが二人に聞こえるはずもない。
佐助はふと、あるものに目をとめた。
それは名前のポケットから覗く灰色の無機物。

「………名前ちゃん、これ…」

名前に近づいた佐助はずるりとそれを引っ張りだした。

「…なんだよ猿。」
「なに？」

睨む政宗は気にせず、二人の目の前に今引っ張りだしたそれを突きつける。

「携帯、気付くわけないよね。つか、ならないし、これ。」
「…………おい名前。」
「…………あちゃー。」

佐助の手に握られ示されたのは、楕円形のボタンがたくさんついたリモコンだった。
…所謂、TVのチャンネルというやつである。
間抜けな声でリモコンを見つめる名前は、政宗に怒鳴られる前にその手を握った。
そしてまたごめん。と言って手を引く。

「授業サボろ。埋め合わせする。」
「…………付き合ってやる。」
「ありがとう。」

相変わらず拗ねた表情のまま、しかし格段に機嫌の良くなった政宗は名前の指に己の指を絡める。

(…バカップルめ。)

そう内心で毒づきながら佐助は二人が教室を出ていくのを見守った。
そしてもう弁当を食べ終わった主に団子を与えながら、ほっと安堵の息を吐くのだった。

(あぁ、やっといつもの教室に戻った。)












オマケ

「shit！まだ肌寒いな。」
「まだ5月だからね。」
手を繋いだまま屋上へと上がった二人。
「暖かい？」
「……Yes」
コンクリートへ座り込んだ名前の腕に収まった政宗は上機嫌にその胸へとすりよる。
「政宗可愛いー！」
ぎゅっと抱き締めて頬へキスを一つ。
政宗も照れながらそれに応える。

…二人の甘い時間は、当分終わりそうにない。