短編(♂) | ナノ



学園の長期休み。
小さい頃からお世話になっているお寺への帰り道に、それは居た。いや、あった、と言う方が正しい。
道ばたの木の根にうずくまる汚い塊。わずかに上下する背中に、どうやら生きた人間らしいとわかる。

「………大丈夫か?」

その塊はとても小さくて。おれは昔を思い出して思わず声をかけていた。
しかし返事はない。何時か呼びかけ体を揺すってみる。…無反応。

(生きては、いる、よな…。)

不安だ。首に触って脈をみよう。
そう思い触れた肌は異様なくらいに熱かった。

(熱!?)

子供に意識は無いようで、おれは慌ててその子を背負い走り出した。
自分もお世話になっている身。もう一人、しかも勝手に連れ帰って大丈夫だろうかとも思ったがこんなに小さい子をこんな状態でほってはおけない。
きっと住職はお優しい人だから大丈夫!と願いながら、まだ半分以上ある寺への帰路を全力疾走したのだった。






「…………な、に…」
「あ、気づいた!」

布団の中で虚ろな目をしている少年。

あの日おれが子供を連れ帰ると、やっぱり優しい住職は大急ぎでお医者様を呼んでくれた。
お医者様の話によると、過労と栄養失調だそうで。
その後おれと住職の手厚い看病で少年の容態はだんだん良くなっていった。
そして今日。
少年はやっと意識を取り戻した。

おっくう気に辺りを見た少年はおれを見つけると途端に険しい表情になる。

「……だ、れだよあんた………ここ…どこ……」
「良かった、おまえ道端に倒れててすごい熱だったから連れて帰ってきたんだ。ご住職ーー!!少年が目覚ましましたぁー!」
「…っ?」

おれが廊下に顔を出して叫ぶと少年はびくっと体を強ばらせた。

「……う、そ、だ…」
「嘘じゃないよ。」
「…だまされない…からな…」

警戒心丸出しの目で一生懸命おれを睨む少年。困ったな。

「…とりあえず、飯持ってくるから。安静にな。」

一つため息をついておれは立ち上がる。大人しく寝てろよー。と釘を刺して台所へ急いだ。

「おや名前、あの子はどうしました?」
「なんだかすごく警戒されているので、とりあえず餌付けしようかと。」
「これこれ。」

笑った住職の手にはおれの小さいころの服と手ぬぐい。

「何か消化の良いものを、ね。」
「はーい。」

駆け込んだ台所で手早く料理する。おかゆとちょっとしたおかず。もちろん食べやすいよう小さく切って。

「おまたせー。」

部屋では住職が話したのか、落ち着いた様子の少年が布団の上に体を起こしていた。
出来た食事を少年に差し出すとじぃっとおれを疑うように見て、おずおずとさじを口に運ぶ。住職をちらっと見てから一口。
そして安全だと判断したのかぱくぱくと勢いよく食べ始めた。

「お味は?」

怖がらせないよう笑いかけると、ぴたっと手を止めた少年は戸惑いがちに呟いた。

「………おいしぃ…」
「ん、よかった。」












少年が意識を取り戻してから数日。
もう少年はだいぶ回復していて寺の中や境内でぼんやりしている。

「おーい、飯だぞー。」
「…あ、うん」

まだおれは少年を懐柔出来なくてちょっとギクシャクしている。
そう言えば、少年の名はきり丸といった。齢は6つ。摂津の国から流れてきたのだそうだ。

「体調はもう大丈夫か?」
「…うん」
「元気になって良かったな。」
「…うん」

話しかけても戸惑いがちな返事。嫌われてるのだろうと思いながら歩いていると、突然手に何かが触れた。

「?」
「…あ、」
「あ?」

見ればきり丸の小さな手が懸命におれの手を握っている。何か言いたいらしい。
急かさないように優しくどうした?と聞き返す。

「…ありがとう」
「………へ?」

ありがとう?
予想もしていなかった事を言われ、一瞬固まった。

「たすけてくれて、ありがとう。」

うたがってごめんなさい。と幼い瞳がおれを見上げる。

「っ」
「わっ」

おれが感極まってきり丸を抱きしめると小さな身体がびくっとなった。

うわあぁぁなんだこの可愛い生き物!ありがとうとか!ごめんなさいとか!ちょ死ぬきり丸の可愛さに全おれが悶え死ぬ!

いろいろ爆発した脳内をおくびにも出さず、おれはきり丸に笑いかける。

「きり丸が元気になって本当に良かった。ありがとう。」
「…うん!」

はにかんだ笑顔で頷いたきり丸がおれの首に抱きつく。まだ骨ばった身体を抱き上げて居間へ走る。
きゃっきゃとおれの腕の中で騒ぐきり丸ごと部屋へ飛び込むと、何事か顔を上げた住職に笑われた。

「あ、すみません、」
「いやいや、仲が良くて何よりですよ。」

優しく微笑むご住職に2人で顔を見合わせて、

「「はいっ!!」」

おれたちは元気に返事をしたのだった。
















椎名黎様、大変長らくお待たせしました。本当に申し訳ありません!
長編の番外編としてきり丸との出会いと頂いたのですが、こ、こんな感じで如何でしょう?
きり丸との話は連載を始めた頃から考えていたのですが、まさかリクエストを頂けるとは本当に嬉しいかぎりです(*^_^*)

リクエストありがとうございました!


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