雨の酷い梅雨の夜。
向こうの山が光るのを見ながら厠から帰るところ、なにやらすすり泣く声が聞こえた。
声の出所は級友の部屋。ここは八の部屋か。
「…………八?」
「………………………なまえ…?」
声をかけると蚊の鳴くような声で八が答えた。どうしたと尋ねると鼻をすする音がする。
「何かあったのか」
「………な」
八が俺の名を呼ぼうとしたとき、ひときわ空が強く輝き、腹の底に響くような轟きが落ちた。
「ひっ!!!!」
部屋の中からひきつるような悲鳴が聞こえ障子が壊れんばかりの勢いで開く。
「は、ちっ!?」
「な、なまえぇぇぇぇぇ!」
「おぅっ?」
部屋から出てきた八はいろんな意味でぐちゃぐちゃだった。しわになった寝間着とぼさぼさの髪。涙と鼻水が顔を汚している。
なっさけない顔で号泣しながら八は俺へとタックルをかましてくれた。
「…はちー?」
「名前ぇぇぇ雷っ雷いやだよぉぉぉお」
「…そーか、そーか。」
俺にしがみついて喚く八を引きずって部屋へはいる。中は一組の敷き布団と部屋の隅に丸まった布団。なるほどあそこで震えてたわけか。
「八、同室のやつは?」
「…きょ、じ、しゅぅ…」
この嵐の中大変だなぁと思いながら八の頭を撫でてやる。えぐえぐする八を手繰り寄せた布団でくるむ。
(さて、どうしたものか。)
八の手はがっちりと俺の寝巻を握っているし、なによりこんな状態の友人を放って部屋に戻るほど俺も鬼畜ではない。
「なまえぇ…いっしょっ…いて…!」
「…仕方ないか。」
「な、なまえぇ」
「よしよし、怖くないからなぁ」
布団の上から抱きしめて、下級生たちにやるように頭をなでてやる。
それにしても意外だ。八男前なのになぁ。
えぐえぐがだんだん小さくなってくる。落ち着いてきたのだろうかと八の顔をのぞくと赤い目と目があった。
「大丈夫か?」
「ん、…ごめん名前…」
「気にするな。怖いもんくらい誰だってあるもんな。」
「名前…!」
あ、俺今ちょっと格好良かった!
ありがとうとまた八が抱きついてくる。多少蒸し暑いけど我慢するか…。
ぴかっ ゴロゴロ どーんっ(うわぁあぁ!)
(雷様は意地悪だなぁ)
(雷、さま…大変だ!名前っへそをとられるぞっ!)
(へ?)
(名前のへそはおれがまもるっ…!)
(八…(きゅんっ))
2012.05.08 修正