「伊作ー。」
ある休日
六年長屋に間延びした少年の声が響いた。
「名前?」
「いたいた。」
忍たまの友を片手に顔を出した名前に、コーちゃんの手入れをしていた伊作は手を止め振り返る。
「あ、ごめん、忙しい?」
「ううん、大丈夫。どうかした?」
「これ教えて。」
そう言って伊作の隣に座り込んだ名前は広げた教科書を指差した。
「んー、これかぁ。僕もよく分からないんだよね…。」
並べられた数式に伊作は眉を曇らせた。
「ごめん、仙蔵か文次郎に聞いてみたら?」
「だめ。あいつら冷たい厳しい。」
真顔で即答する名前に苦笑しながら「じゃあ長次は?」と言うと「あー…うん、行ってみる。」と言いながら名前はごろりと畳の上に寝ころんだ。
どうやら完全にやる気が殺がれてしまったらしい。
「はー…いい天気だよ伊作。」
「そうだねぇ。」
「コーちゃんきれいになった?」
「うん、もう少し。」
「そっかぁ。」
ぐでーっと畳に沈む名前に、伊作はまたコーちゃんの手入れを始めた。
静かになった部屋にしばらく伊作の作業をする音だけが響く。
「………伊作ひま。」
「長次のとこ行ってみたら?」
「んー、後で行く。今は伊作がいい。」
「そ、そう?」
「うん。邪魔?」
「僕も名前がいてくれた方が嬉しいよ。」
「良かった。」
嬉しそうに笑った名前が寝返りを打つ。
畳に寝転び両腕に頬を押し付ける形のうつ伏せで、名前は伊作とコーちゃんを眺める。
「相手出来なくてごめん。もう少しで終わるから。」
「ゆっくりでいーよ。今すごく居心地良いから。」
「名前…。」
幸せそうな柔らかい表情で目を閉じる名前。
伊作も同じようにほほえんで、またコーちゃんの手入れを再開した。
君の傍に(伊作ー…っと、名前?)
(留さんしーっ。)
(悪ぃ悪ぃ。…間抜けな寝顔だな。)
(可愛くない?)
(まぁ無防備過ぎて微笑ましいよ。)
(でしょ!)
雲雀 忍 様
リクエストありがとうございました!
伊作で甘と頂いたのですが、い、いかがでございましょう……^^;
たいへん長い間お待たせして申し訳ありませんでした!
2012.04.16 加筆