竹中半兵衛には、側近が一人だけいる。
「半兵衛様、」
男は名を名前といい、半兵衛の護衛も兼ねる知力武力ともに優れた人物であった。
「半兵衛様。」
柔らかい声がゆったりと主の名を呼ぶ。
「半兵衛様、」
幾度も己を呼ぶ名前の声に応えずにいると、ふわりと肩に羽織がかけられる。
「半兵衛様、もうお休みになりませんと。」
「まだだよ、もう少し。」
羽織を持つ名前の手が肩越しに伸びてきて半兵衛の手から筆を奪っていった。
「こら、危ないだろう?」
「そんな粗相は致しません。」
「主の手から筆を奪っておいて?」
「半兵衛様が何度言ってもお止めにならないのが悪いのですよ。」
ことりと硯に筆を置きながら名前は悪びれもなく答える。そして軽々と半兵衛の身体を抱き上げた。
「さて、もうよろしいですね。」
「…君は相変わらず強引だ。」
「嫌なら消えろと命令なさればいい。」
「…………そんな事、僕には決して出来ないと知ってるくせに。」
「ふふ、私も、その命にだけは従いませんから。」
「普段から結構無視されている気がするけどね。」
「それは半兵衛様が自らを顧みないからでしょう?」
倒れられては困るのですよ。と笑った名前が半兵衛の額に口づけする。
「仕方ない。今日はここまでにしてあげるよ。」
「それはそれは。」
軽口を交しながら寝室へと運ばれる。
「で、一緒に寝るんだろう?」
「主と床を共にするなどとてもとても。」
「よく言うね。これは命令だよ?」
「我がままな主様ですね」
「………名前、」
「そのように甘えても駄目ですよ」
「…………君が寝ないなら、僕も寝ない」
「ではここで座って寝ますから」
「同じ布団に入らなきゃ、寝ない」
「……またそのようなことを」
「同じ布団に入って腕を貸してくれなきゃ寝てあげないよ」
「……何やら条件が増えていますよ」
仕方ない、と呟いて名前は半兵衛の隣へ入る。嬉しそうに名前の腕を枕代わりにする半兵衛を愛おしげに抱き寄せた。
「これでよろしいですね」
「うん、おやすみ」
「おやすみなさいませ」
困った人
(名前の腕の中にいると温かいよ)
(身体も、心も、ね)
誰www