短編(♂) | ナノ


がつんっ

聞き慣れた音と身体を襲う圧迫感。
またかとため息をついて起き上がると、衝立が史明に蹴られて俺の布団の上に倒れていた。
相変わらず寝相の悪い奴だ。
外は少し白み始めたばかり。いつもより少し早いが、起きることにした。
夏場、鍛錬をするなら涼しいこの時間帯が一番だ。
林の中から時々「ギンギーン!」と聞こえてくる。隈のひどい会計委員長がいるらしい。
きっとまた徹夜に違いない。





鍛錬を終えて戻ると、史明が起きたところだった。立て直した衝立がまた倒れている。

「おはよう、史明。」
「んー…おはよ」

のたのた着替える史明を待って食堂へ向かう。
途中、寝ぼける久々知と尾浜を引きずる竹谷を見かけた。面倒見の良い奴だなと思いながら通り過ぎる。
食堂はもう混み始めていた。定食を受け取って席に座る。
うん、今日もおばちゃんの飯が美味い。






座学の授業中。
配られた抜き打ちテストの解答欄を埋め終え、暇なので校庭を見ていた。
隣では史明が必死にカンニングに励んでいる。
校庭では紫色の装束が走っている。その中でひときわ目立つ金髪が、こちらを見上げた。
タカ丸さんだ。
ふにゃ〜っといつもの笑顔で手を振るので、俺もつられて笑いながら手を振り替えした。





昼、図書室に本を返しに行くときり丸がいた。
返却された本を棚に戻している。
高い棚には手が届かないのか、踏み台の上でぴょんぴょん跳ねている。
可愛い。
でも危ない。
中在家先輩は手が放せなさそうなのできり丸に近づく。
ひょんっとひときわ高く跳ねたきり丸の体を抱き留め、棚に手が届くように持ち上げた。

「あ、先輩。すんません。」
「届いた?」
「はい、ありがとうございます!」

それは良かったと、きり丸を降ろそうとするとぎゅっとしがみつかれた。

「…きり丸、他に高い棚に戻す本は?」
「それでーす。」

示された本の山に笑いながら、俺はそのままきり丸の手伝いを始めた。







昼飯時。
目の前で人気の唐揚げ定食が売り切れた不運な善法寺先輩を視界の隅にとらえながら、史明と一緒に唐揚げ定食を頬張る。
午後も座学だ
夜の実技授業に向けて事前学習らしい。
座学が嫌いな史明はずっとダラダラしている。
別に、実技は夜出来るから良いんじゃないかと思うが、史明曰わく「夜は寝るもの!」らしい。
夜遊び好きのくせに訳の分からん奴だ。
まぁそれ以前に、忍者は基本夜活動するものだが。
元気よく駆け込んできた2年生と入れ替わりで食堂を後にする。
午後の授業では、居眠りした史明への鉄槌に巻き込まれてしまった。





授業が終わって委員会の時間。
必死に落とし穴を埋める食満先輩を見つけた。
火薬庫に行く途中には鋤を担いだ綾部がいる。

「名前先輩、こんにちは。」
「こんにちは。掘るなとは言わないが、あまり深く掘ってやるなよ。」

用具委員長が一生懸命埋めてたぞ。と告げると、はーい。と呑気な返事が返ってきた。

「…お前、話聞いてないだろう。」
「聞いてますよ?僕の背丈くらいで止めときます。」
「ん、それぐらいなら大丈夫か。」

どうせ埋めるのは俺でも後輩でもない。
頑張れよ。と綾部の頭を撫でて、俺は火薬倉庫へと急いだ。







「こんにちは、名前先輩。」
「やぁ、伊助。三郎次も。早いね。」

火薬庫にはもう後輩の2人がいた。久々知とタカ丸さんはいない。

「先輩、今日はどうしますか?」
「んー、新しい火薬が届いたって言うから、それの整理をしよう。」

指示を出すとテキパキ動いてくれる2人。本当に頼もしい後輩だ。
普段は久々知に任せてばかりなので、いない時くらいは上級生らしくしよう。








夕食時。
食堂には六年生がいた。俺に気づいた食満先輩が手招きするので、仕方なく先輩方の隣に座る。

「お疲れさん。」
「お疲れ様です。」

あいさつもそこそこに夕食に手をつける。
隣に座った史明が、俺の皿からきゅうりの漬け物をさらっていった。
その代わりに史明の嫌いな椎茸が俺の口元に差し出される。
いつもの事なので史明の箸に挟まれた椎茸をそのまま食べる。

「……………お前、椎茸好きなのか?」

よく味の染みた煮椎茸を味わっていると、食満先輩がそう声をかけてきた。

「いえ、別に。」
「そ、そうか。……あ、人参食べるか?」

そう言って先輩は人参を箸に挟んだ。
………………嫌いなのだろうか?
まぁ断る理由もないので大人しくそれを口に入れる。
咀嚼しながら先輩を見ると、ばくぱく口を開いたり閉じたりしていた。

「お、おまっ…なっ、なっ……!?」

な?な?……………なす?
ではお返しにと漬け物の茄子を一切れ先輩に差し出す。
先輩はまたよくわからない言葉をドモリながらおずおずと茄子を食べた。
赤い顔で「ごちそーさん…。」と呟く先輩に「いえ。」と返してまた自分の飯を食べ始めた。
…………なんでそんなに嬉しそうなんだ先輩。







夜、校庭に行く途中で鉢屋と不破に会った。

「あ、名前。」
「は組は実習なんだって?」
「あぁ。」

同じ顔した2人。
もう風呂に入ったらしい。髪が濡れているしうっすら湯気が出てる。
…………………鉢屋は風呂でも不破の顔なのだろうか。
少し気になったが今はそれどころじゃないので、また今度聞くことにしよう。

「名前、気をつけてね。」
「頑張れよー。」
「あぁ。2人も風邪引くなよ。」
「「うん!」」

2人は嬉しそうに笑って部屋へ戻っていった。
俺も実習に行くべく歩き出す。
校庭に出ると先に行った史明が手を振っていた。

「おーい、名前ー早くこーい!」

はいはい、と手を振りながらみんなに合流した。

さて、今夜も頑張りますかね。









――――――――――――――
朔様
長らくお待たせしてしまい申し訳ありません!
しかもダラダラと長くなってしまった……。

せっかくなので生徒総出演!と思ったんですがダメだったwww

こんな駄文ですがお気に召していただけると嬉しいです(^▽^)


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