短編(♂) | ナノ


「ん、美味しいよ。」

私の友人は、味音痴です。

「そっか、まだあるぜ!」

嬉々として手料理をテーブルへ並べるアーサーさん。
それは炭だったり食べ物とはとうてい思えない物だったり。
けれど、彼に心底惚れている私の友人は、それを美味しいといって全てその胃へ収めているのですから。

「菊も食べるか?」
「い、いえ、私はいいです。」

アーサーさんにすすめられますが、私は是非とも遠慮したい。
私の胃も味覚も名前のように鋼鉄ではありません。

「私そろそろお暇しますね。」
「もう帰るのか?」
「はい、ルートさんのところに用事もありますし。」

そうか、と呟いたアーサーさんは嬉しそうに料理をたいらげる名前をチラチラ見ています。
まぁ、私が連れてきたのですからそう考えるのは自然ですが、

「名前のことをお願いできますか?」

本当はアーサーさんのところに行きたいという名前に、私がついてきたのです。

「あ、あぁ!任せてくれ!」

名前を置いていくと言うとアーサーさんはとても嬉しそうに笑いました。

「アーサー、」
「ん、どうした名前?」
「ご馳走さま。美味しかったよ。」
「っ?!」

幸せそうな笑顔でアーサーさんの腕を引いた名前。
私がいるのもかまわず聞こえる小さなリップ音。
…見せつけてくれますね。

「なっ、菊がいるんだぞっ!」

突然キスされたアーサーさんが真っ赤になってそう言います。
そんなの、私だって照れ隠しだと分かってしまいますよ?

「デザートは、アーサーが食べたいな。」
「ば、ばかぁぁあ……!」

言うが早いか、アーサーさんを抱き寄せて事に及ぼうとする名前。

(人前でするようなはしたない子に育てた覚えは無いんですが。)

はぁとため息を吐くと、名前がアーサーさんの服を脱がしながら私を見ます。
アーサーさんはもう周りが見えなくなり始めたようで、うっとりと名前の腕の中で悦に入っていました。

(はいはい、お邪魔虫は帰りますよ。)

菊が帰れば人前じゃない、と目が語っています。
屁理屈だとは思いますが、私のため息の意味を悟ったので素直に帰ってあげましょう。

「ごゆっくり。」

きっとアーサーさんには聞こえていないでしょうね。


本格的にアーサーさんの声が上がり始める前に私は彼の屋敷を後にしました。


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