「…あの、」
「なんだ。」
「…なに怒ってるんで「しらん。」…すみません。」
綺麗な笑顔の仙蔵が私の前に座っている。
なぜか私に対して激怒しているらしい。理由に心当たりはない。
「仙蔵、」
「なんだ?」
「あ、いや…」
素晴らしく笑顔な仙蔵。あぁぁぁ美人の笑顔は迫力があるんだ!
私は何も言えずに項垂れる。本当に、何を怒っているのだろうか…。
とりあえず正座のまま1日を思い返して見る。今日は授業もないので一緒に街に出ていた。
2人で歩いてご飯食べて買い物して。
ずっと仙蔵はご機嫌だったし恋人らしい雰囲気だったはずだ。
突然仙蔵の態度が変わったのは甘味処で休んでいたときだが…
「……あ…」
そういえば、甘味処で仙蔵が手洗いへ立った時若い女の子たちに声をかけられた。
みんな綺麗な着物を着ていて、褒めたのだが…まさかそれを?
「気づいたか。」
「…見てた?」
「あぁ。しっかりな。」
仙蔵の笑みが消え般若と化す。
「なにが綺麗ですね。だ。どこの口がほざく?」
「いや、綺麗ですねってのは着物の話で…」
「言い訳か?男らしくないぞ!!!」
「ほんとほんと!仙蔵の方が似合うって思ったんだよ!」
「まだ言うかっ…!」
「ちょ、ごめん仙蔵!全部私が悪かったから泣かないで!」
「私が悪いわけないだろう!?名前のばか!」
ほろほろと仙蔵の双眸から涙が零れ落ちる。慌てて拭おうと手を伸ばすが叩き落されてしまった。
「泣かないで仙蔵…」
「ぅるさい…!」
ごめんねと何度も繰り返して仙蔵の涙を拭う。
「次にこんな事があったら絶対許さないからな…!」
「うん、もう絶対しないから。」
「今度着物贈れよっ!」
「うん、着物ぐらいいくらでも…って、え!?」
私の襟を掴み胸に顔を伏せる仙蔵。
「約束だからな!」
「は、はい!」
勢いと迫力に思わず返事をしてしまう。
「よし、なら許そう。」
そのとたん仙蔵は清清しい笑顔になった。
……まさか、やられた?
「ちょ、仙蔵…?」
「ふふっ、楽しみにしているぞ、名前!」
「……はい。」
あぁさすが私の恋人。抜かりないというかなんというか…。
とりあえずもう一度ごめんね、と呟いて私は仙蔵を抱き締めた。
…いくらかかろうと、仙蔵の笑顔が見られるならいいか。
策士な彼の甘い恋人。(……まぁ、怒ってたのは本当だし。)
(私以外を見つめるなんて許さないぞ名前!)