ぼこぼこと穴の空いた地面にへたり込む後輩を見て、名前はどうしようもない人だと今はいない己の恋人に苦笑した。
「滝、」
「…?」
荒い息を繰り返しながら泥だらけになった滝に手を貸してやる。
「大丈夫か?」
「は、はい……。」
死にかけている後輩たちを助け出す。
「もう休んどけ。これ以上は無理だろ?」
魂が抜けそうな一年生に迷子になる気力もないだろう三年生。そして必死に着いて行ったのだろう
ぼろぼろの四年生。
あいかわらず、恋人は暴君のようである。
「先輩、でも…」
「小平太先輩には俺が着いてくから、ゆっくり休んどけ。明日も多分やるからな。」
うへぇぇと言いながら潰れる後輩たちに笑いながらどこまでも続く塹壕を追うため、俺は歩き始めた。
「あれ?」
裏山まで塹壕を掘り進めていた小平太はやっと自分の後ろに誰もいないことに気がついた。
そういえば途中で後輩たちが何か叫んでいた気がする。
悪いことをしてしまったなぁと思いながら、そろそろ帰ろうとそこで手を止めた。
もう暗くなり始めている塹壕を引き返す。しばらく戻ると、塹壕の中を向こうから誰かが歩いてくる。
「あ、名前!!」
「こんにちは。」
慣れた気配に嬉しくなった小平太は己の装束が泥まみれなのも構わず、自分を追って来たらしい後輩へと飛びついた。
「わっ、危ないですよ先輩。」
「先輩じゃないだろー?」
「…小平太、」
「うん。」
自分より少し小さい名前に抱き着いて小平太は笑う。
年の割りに子供っぽい恋人の頭を優しく撫でてやりながら名前は小平太の頬の泥を拭った。
「そろそろ帰りましょうか。」
「そうだな!」
腹減ったー!と叫びながら名前と手を繋いだ小平太はニコニコ笑っている。
「今夜の夕飯なんだろうな?」
「小平太の好きなものだと良いですね。」
「あぁ!」
夕日の中を、二つの影が寄り添いながら帰っていった。
暴君な彼の優しい恋人。(でも実は、)
(名前は怒るとかなり怖いらしい。)