「じゃあよろしく頼むね。」
「はい。」
その日、いつものようにお人よしな伊作は教師からの頼み事を引き受けていた。
それは保健室から図書室へと本を運ぶ仕事である。
山積みの本の山を抱え、前も満足に見えない状態でよろよろと歩いている伊作の向こうから人影が
やってきた。
「先輩。」
「え?」
そして唐突に伊作の手元の山が消えていった。
「わっ!?名前?」
また落としてしまったのかと焦った伊作だったが、目の前に立つ己の恋人の手に移ったのだと気づ
くと嬉しそうに笑う。
「手伝いますよ。」
「ありがとう。助かるよ。」
にっこりと優しく笑う名前と並んで歩く。
恋人ながらも後輩の名前に会う時間は少ないのでこうした時間は貴重である。
お互いに他愛のない話から照れくさい告白にまでいたる会話。
ひどく甘い雰囲気のまま目的の図書室へとつく頃には2人だけの世界が出来上がっていた。
「あ、ここでいいよ。」
「最後まで手伝いますよ。」
「名前…ありがとう。」
仲良く図書室へ入ると、伊作について来た名前を見て図書整理をしていた雷蔵が首をかしげた
。
「あれ?名前また来たの?」
「…また?」
長次に本を渡しながら己の隣に立つ名前を見上げる。名前は誤魔化す様に笑った。
「野暮っスよ先輩。名前先輩が伊作先輩を手伝わないわけないじゃないっすか。」
にやにやしながらきり丸が本を運んでくる。
「きり丸。」
「へ〜い。」
余計な事は言いませんよ〜。っときり丸が逃げていく。伊作は名前を見た。
「もしかして、さっきまで図書室にいた?」
「…えぇまぁ。」
「…無理に手伝ってくれなくても良かったのに。」
「先輩にあんな重いもの持たせておけませんよ。」
「名前…!」
そんな優しいことを言われうっとりと名前を見つめる伊作。
しかしそこにきり丸と長次が割って入った。
「…………。」
「『いちゃつくのは部屋に戻ってからにしろ。』とおっしゃってます。」
出て行けと出口を指差す長次に、名前と伊作は上機嫌に図書室を後にした。
「先輩、この後は?」
「特に用事は無いよ。」
「じゃあ少し付き合っていただけますか?」
「もちろん。少しと言わずね。」
お互い幸せそうに笑って手を繋ぐ。
また他愛ない話を始めながら、二人は廊下を歩き出した。
不運な彼の紳士な恋人。(名前先輩って伊作先輩に甘いっスよねー。)
(………。)
(あぁ、六年はみんなああなんっすか。)