私の主は変わり者だ。
「ふふ…」
戦でもないのに愛刀の大鎌を手に、私の目の前に立っている。
「名前」
「はい。」
私を呼ぶ声は穏やかで、全くその姿と一致しない。
綺麗に微笑んだ主は、なんの前触れもなく鎌を降り下ろした。
…私の頭めがけて。
「…避けるんですか。」
とっさに後ろに跳び回避する。しかしかすったのか頬に痛みが走った。
「そりゃ避けます。」
「では、避けてはなりません。」
「…ご冗談を。」
また一撃を繰り出されて避ける。
主の綺麗な眉が不機嫌そうにつり上がった。
「私の命令が聞けませんか。」
「他の事でしたら何なりと。ですがこの身は光秀様をお守りするためにある身。ここで散ることは出来ませぬ。」
私がそう言うとしばらく沈黙が降りた。
「……名前、」
「はい。」
「ではそこに座りなさい。」
唐突に言われ顔を上げれば、白く長い指が縁側を指していた。
とりあえず殺されはしないようなので大人しく縁側に座る。
「良い子ですね。」
そして主はおもむろに寝転ぶと私の膝に頭をのせた。
「み、光秀さま!?」
こともあろうに主が床に寝転びなおかつ家臣の膝枕など…!
「光秀様、」
「名前、私はしばらく寝ます。私が起きるまでこのままでいなさい。」
私が言葉を発するより早くそう言われ、何も言えなくなる。
「…寒いですからお風邪を召します。」
「平気ですよ。」
「…………承知いたしました。」
私の膝の上で光秀様は目を閉じてしまわれたので、きっともう何を言っても無駄だろう。
せめてもと己の着ていた長羽織りを主にかけた。
「失礼します、光秀様。」
それに気付き、光秀様はクスクス笑う。
「名前の匂いがしますねぇ。」
そう言って笑う光秀様に思わず赤面していると、おやすみ、と聞こえた。
「…おやすみなさいませ。」
そろりと髪に触れる。
光秀様が特に咎めないので、ゆっくりとその綺麗な銀髪を撫でた。
主人と家臣(触れることを咎める訳がないのに)
(馬鹿な男。)
(まぁ、少しは進みましたかねぇ。)
触りたい光秀→→←遠慮気味な主