短編(♂) | ナノ


その日、中谷は景虎に突然飲みに行こうと誘われて、なじみの居酒屋にいた。
わいわいと仕事帰りのサラリーマンたちが盛り上がるのを横目に、カウンターに座った二人はとりあえず「生中2つ。」と注文した。
これが原澤とだと、大変雰囲気のある小洒落たバーになるのだが、景虎なので仕方ない。

「よし、お疲れさーん!」
「お疲れさん」

すでにテンション高めな(普段からではあるが)景虎と乾杯してビールを呷る。久しぶりに喉を通る苦みと炭酸がたまらない。
出された肴を摘まみながら突然どうしたのかと問うと、リコがなぁ!と彼の溺愛する娘の名前が出てきた。最近ますます監督業に精を出していて心配だとかメニューを組むのが上手くなったとかリコを監督にもてるあいつらは幸せだとか、とにかく娘が大好きで仕方ないらしい。
適当に相槌を打ってやりながら中谷はその様子を少し羨んだ。
大好きで大好きで仕方ない人間なら中谷にもいるのだが、それを景虎のようにおおっぴらに話せるかと言われれば答えはNOだ。それは中谷の性格も関係するが、なにより社会的に認められない恋人なのだ。

「そういやマー坊、お前結婚しねぇの?」
「………………あぁ」

なんとタイミングの良いことか。
恋人のことを考えていた中谷は1つため息を吐いて景虎を見た。
どうせ娘はいいぞ、と言いたいのだろう。
残念ながら結婚する予定はないし、結婚しても子供は望めない。

「なんだよ、だれか紹介してやろうか?」
「いらん」
「相変わらずストイックな奴だなー」

別にストイックではない、と心の中だけで反論して中谷はつまみのモツ煮を咀嚼する。

中谷には、年下の恋人がいる。
物腰が柔らかで他人に優しく自分に厳しい。何事にも真剣に取り組むその姿に、老若男女問わず誰もが好意を抱く。
そんな人間だ。数年前には中谷の教え子でもあった今の恋人は、現在中谷とは違う私立高校で教鞭をとっている。
高校時代に所属したバスケ部の経験を生かし、バスケ部顧問をしていて生徒たちにもずいぶん人気が高いらしい。
背が高くて涼しげな顔立ちで、優しい顔と声で笑う。
そんな男の恋人が、いる。

(…………名前)

心の中で恋人の名前を呼んでみる。
今夜は勤め先の親睦会だから帰るのが遅くなると連絡があった。
少し前から同棲を始めたが、お互い仕事が忙しく家で2人ゆっくりする時間はほとんどない。
付き合い始めてからもうずいぶん経つ。そういう行為が無い訳ではないが、若い名前は案外淡白なようで身体を求められることは少ない。特に同棲を始めてからは回数が減っているように感じる。
名前から告白されたとはいえ、自分はもういい年のおじさんだ。名前が抱きたいと思わなくなっても仕方ない。
そう考えてしまうと気持ちはどんどん落ち込んでいく。
前にしたのはいつだっただろうか。それより、触れあった記憶さえあやふやだ。
もしやもう気持ちが離れてしまったのでは考えて、中谷は息をつめた。

「マー坊?ほら手ぇ止まってるぞ!」
「……あぁ、すまん」

ご機嫌な景虎が空になったグラスにいつの間にか注文したビールを注ぐ。
それをぼんやり眺めながら、恋人のことを考えていた中谷はそれ以上思考が落ち込まないようにとビールを呷った。




「……おいマー坊?大丈夫か?」
「………あぁ…」

店に入ってから一時間と少し。
珍しくハイペースでグラスを空けていく中谷に、景虎は違和感を感じていた。
自分が話をしていても相槌が返ってくるだけで中谷はどこかぼんやりしている。
体調でも悪いのか問うてみても「いや、」と短い言葉で否定された。

「……なんだ、なにか悩み事か?」
「っ」
「(当たりか…)…俺でよけりゃあ相談に乗るぜ?」

言うと中谷がじっと景虎を見つめる。
言うか言うまいか悩んでいるのだろうか。
しばらく考え込んでいた中谷の唇がゆっくりと音を紡ぐ。

「……とらは、どのくらいの頻度でしているんだ?」
「…………………あ?」

景虎の反応を見て中谷は不機嫌そうに眉を寄せる。
いや、今の反応は仕方のないことだろ、と思いながら景虎は聞かれたことをもう一度心の中で繰り返した。
どのくらいの頻度でしているんだ?
それは何の頻度を聞いているんだと思わず中谷を凝視する。こいつは昔からあまりそういった方面の話には乗ってこなかったのでなにか別の、そうだ、バスケの話とかだといい。
そう思いながら、景虎は「な、なにをだ?」と聞いた。

「……奥さんとのSEXだ」
「!!!!」

あまりにストレートにそう返され、景虎は絶句した。
まさかだ。まさか中谷にそういうことを聞かれるとは思わなかった。オープンスケベの原澤ならまだしも、あの中谷にだ!
じっと自分を見てくる中谷の表情に照れは無い。ということは、本気で悩んでいるということだろう、そういった方面に。
そして、自分にそんな相談が出来てしまうほど酔っているというわけだ。

「あー………まぁ、週に、い、1回くらいだな……」
「…そうか」

手元のグラスに目を落とした中谷がもう一度、そうか、と呟く。
その様子にさすがの景虎も照れと恥ずかしさで悪いか!と返したくなったのだが、ぽつりと聞こえた「…恋人が、いるんだが」という中谷の告白に、口をつぐんだ。

「…初耳だな。どんな子だ?」
「……同じ教師だ…」
「へぇ、秀徳か?」
「いや……」
「じゃあどこで知り合ったんだ?可愛い子か?いくつだ?」

普段ならうるさいぞとら、の一言で片づけられてしまう矢継ぎ早な質問にも、中谷はぽつりぽつりと答えていく。

「…元教え子なんだ…可愛いというよりは……綺麗、だな」
「ほー、教え子か!綺麗系か、お前昔から面食いだしな」
「年は…今年26だな…」
「若いな!!!付き合って何年だ?」
「………7年になる」
「なげぇな!」

今26で7年前って……19?と指折り数える景虎の隣で、今同棲しているんだがとさらに爆弾発言を落とす中谷。

「同棲!?」
「…あぁ、一年位前からだ」
「そ、そうか…………あ?でも結婚はしねぇのか?」
「……出来ない」
「なんだそれ!相手の子可哀そうだろ!」
「………そう、だな」

律儀な中谷らしからぬ発言に思わず声を荒らげると、中谷は目に見えて肩を落とした。
何か結婚できない理由でもあるのか、それなら頭ごなしに怒るのは悪いと思いつつ、景虎は出来る限り優しく問う。

「…結婚できないってのが、悩みなのか?」
「…あぁ、それもあるんだが………」
「?」

確かに結婚とSEXの頻度は関係しないかもしれないと思いついて、景虎は中谷の言葉を待った。
しばらく逡巡した後、ぽつりと蚊の鳴くような声でその悩みを打ち明けた。

「………SEX、してないんだ」
「!?」

あまりに予想の斜め上をいったその呟きに目を見開いて固まる景虎など気にせず、中谷は「淡白なようで、あまり求められることがなくてな…」と続けている。
本当に中谷にしては珍しい話題だ。どれほど酔ってるんだいやどれだけ悩んでいるんだとわずかな頭痛を覚えながら景虎は「そうか」と相槌を打つことしかできない。

「…あー、こっちから誘えばいいんじゃないのか」
「………恥ずかしいだろう」
「いやいやいや、そこは頑張れよ」
「…あまりその、そういう雰囲気にもならなくてな…」
「でも同棲してるんだろ?」
「……一緒にいる時間もあまり取れていない」
「…そ、うか………あー、前にしたのは?」
「………………もう、正確に思い出せないくらい前だ」
「さすがにそれは…」

なぜ求められないんだろうか、と問われわずかな違和感を感じながらも景虎は必死に考える。
しかし酔いと友人のあまりの告白の衝撃のせいでうまく頭は回らないようだ。

「…まぁ、マー坊が下手とか、そういうことするのに抵抗あるとか…あとは、他に相手がいるんじゃねぇの?」
「!!!!」

ぽろぽろと思いついて口に出す言葉は確実に中谷の心に刺さっているだろうが、うまい言い回しが思いつかない。
とりあえず思いつくことを言ってみたら、中谷が大きく目を見開いて景虎を凝視していた。
あ、やばい、今のは言っちゃいけないことだったかもしれん。
そう気づいた時には遅かった。
ずぅううんといっきに沈んでしまった中谷の背中が小さく丸まっていく。

「(やべええええええへこんだ!!!)ちょ、ま、今のなしな!あれだ、もともと淡白な子なんじゃねぇか!?あとはその、仕事で疲れてるとか、求めてるのがそういうんじゃなくて安らぎだとかよ!」
「………いいんだ、ありがとうとら。そうだな……あいつはまだ若いんだ…俺よりいい相手が………っ…」
「!!!?!???」
「あれは優しいから……なかなか切り出せないだけかもしれんな………」

ぐすっと鼻をすする音に景虎の混乱は限界を迎えた。
中谷とそういう話をしてしかも自分の性行為の頻度とか中谷のSEXレスの話とかいろいろと限界だった。そしかも自分の浅慮な発言で中谷を泣かせてしまった!!!
とにかく泣き止ませなければだがどうすればいいんだ?リコは泣いたとき高い高いや抱っこで全力疾走したりするとすぐ泣き止んだのだがまさかそれを中谷にするわけにも…と考えてしまう景虎も、中谷ほどではないにしろ、確かに酔っ払いだった。

ー――…〜♪

突然場違いな電子音が二人の間に鳴り響いた。
よく聞けば最近CMで聞くメロディだ。確かリコが聞いていた恋愛ソングだったはずと考えて、景虎は悟った。
あの機械音痴な中谷が、呼び出し音など初期設定から変えないような中谷が、設定している曲だ。それも自分たちの世代が好んで聞きそうな曲ではない。
ということは、彼女の設定!

「マー坊!携帯なってるぞ、彼女じゃねぇのか?彼女だよな!」
「…あ、ぁ」

まくしたてるとシャツの胸ポケットから携帯を出した中谷が神妙な面持ちで携帯を見つめる。
先ほど景虎が言ったことを悩んでいるらしい。自分は愛想を尽かされたのでは、と…。
なかなか中谷が電話に出ないことに焦れた景虎は早く出ろよ!と中谷を小突く。
その拍子に見えた画面の文字に、景虎は確かな違和感を感じた。

「………すまん、とら」

一言断って中谷がおぼつかない足取りで立ち上がる。
電話のために、にぎやかな店内から出るつもりなのだろう。その哀愁漂う背中を景虎は何も言えずに見送った。







「………はい」

にぎやかな店から出て、人通りの少ない路地へ入った中谷はひとつ深呼吸をしてから通話ボタンを押した。

『……中谷さん?』

呼び出し音が途切れて、中谷の好きな優しい声が自分を呼ぶ。
あぁ、と返すとお疲れ様ですとねぎらいの言葉が聞こえてくる。

『すみません、まだお仕事中ですか?』
「いや……友人と飲みに来ていた」
『あぁ、それで…』
「…どうかしたのか」
『いえ、親睦会が思ったより早く終わったので帰ってきたのですが、中谷さんがいなかったので』

どうしたのかと思って、と続けられた言葉に、中谷は心臓がきゅうと痛むのを感じた。
名前は帰りの遅い自分を心配してくれたのだろうか。

『……中谷さん』
「……?」
『友人って、誰ですか?』
「………景虎だが」
『…二人で、飲んでるんですか』

突然の質問にそうだと答えると、一瞬電話の向こうが沈黙した。
なにか自分は悪いことでも言っただろうかと考えるが、中谷の頭はもうずいぶん酔いが回っていて正常な思考は保たれていない。

『……お店、どこですか?迎えに行きます』
「…駅前だが……わざわざ…」
『行きます』

優しいけれど有無を言わせぬ声に、中谷は先ほどの景虎との会話を思い出した。
名前は、本当はもう自分のことなど好きではなくて、他に欲を満たすような相手がいるのではないか。自分と付き合っているのだって、優しさと惰性で別れを切り出すタイミングが掴めないだけなのではないか。
だって、名前は優しいのだ。自分から告白して恋人になった己に、名前の方から別れを切り出せないのはしかたないのかもしれない。
そう思うと自然と涙があふれてくる。
情けないことにそれほど好きなのだ。告白されたときはそんなことはなかったのに、この7年で自分はすっかり変わってしまったらしい。

『中谷さん』
「……………来て、くれるのか…」
『はい』

強い返事にぽつりと店の名前を告げると、今から行きますから、と聞こえて通話は切れた。
携帯を胸ポケットに戻して店に戻ると、景虎が新しいビール瓶を傾けているところだった。

「…お、マー坊!彼女なんだって?」
「……迎えに来るそうだ」
「へぇ。愛されてんな」

その言葉に胸が痛くなる。
愛されている?本当に?ただ名前は優しいから、帰りの遅い自分に気を使ってくれたのでは?

「………おい、まぁ飲めマー坊」
「……あぁ」

隣から対処に困った景虎がビールを注いでくる。ぐるぐるとした思考を流し込む様に中谷はクラスの中身を一気に飲み干した。








「中谷さん」

中谷が電話から戻ってきてから数十分。
もう何本目かもわからないビール瓶を傾けていると、そんな声が中谷を呼んだ。

「………名前?」
「………?」

景虎は聞こえてきた声に、はて、と思った。
今の声は、優しいけれどどう聞いても男の声だった。それに中谷が呼んだ名前だって、女性にしてはいささか不自然だ。
グラスを置いた中谷が何かに導かれるようにカウンター席から立ち上がる。その背を目で追って、景虎は固まった。

「…名前」
「はい。…あぁ、ずいぶん飲んだんですね。大丈夫ですか?」
「…問題ない」

そこにいたのは背の高い男だった。
涼しげな顔立ちの、イケメンと評される類の顔だ。その男が困ったような、慈しむような表情でふらふらと自分に歩み寄ってくる中谷を見ている。

「……おい、マー坊、その男…知り合いか?」
「………あぁ、名前だ」

紹介になっていない紹介をして、中谷が名前へと腕を伸ばす。
その腕を当然のように自分の首へと導いた名前は自然な動作で中谷の腰を抱く。
満足げに男へとすり寄る中谷を見て、景虎は絶句した。

話を聞いている時から違和感は感じていたが、おい、それ、男だぞ?

「…中谷さんがお世話になりました。」
「…い、いや、遅くまでわりぃな…」

いいえ、と微笑んだ男の目は、笑っていなかった。
酔いのまわった景虎でもわかる。確かな敵意をその瞳の奥にくみ取って、景虎は顔を引きつらせた。
名前は優雅な仕草で己の財布を取り出すと、景虎が何かを言う前に数枚の万札を取り出してテーブルの上に置いた。

「申し訳ありませんが、お先に失礼いたします。」
「お、おう!マー坊またな!」
「…あぁ」

名前の腕に抱かれながら中谷が軽く手を上げる。
そして2人は寄り添ったまま店を出て行った。
その背中を見送って、景虎は1つため息を吐いた。
中谷の話に違和感があったのは相手が男だったからだ。それなら結婚などできないし、自分から誘うのも恥ずかしいだろう。てーか、何が求められない、だ。あんなにわかり易く嫉妬しているのに、中谷は気付かないのだろうか?
今だって思いっきり自分を敵視していた。2人で飲んでいたのが許せなかったのだろう。わざわざ迎えにまで来たのだ。セックスの回数が減ったって....と、そこまで考えて、景虎は思考を止めた。
これ以上は、考えてはいけない気がする。いや、考えたくない領域だ。
ふうと息を吐いて空になったグラスをテーブルに置くと、財布を取り出した。

「大将、お勘定!」

もう何も考えないことにして、愛する娘の待つ我が家に帰ることにしよう。



「………ただいま」
「おかえりなさい」

2人で暮らすマンションに戻ってきて、玄関に入った中谷が呟くと、背後の名前から穏やかな声が聞こえてくる。その事に満足しながらも、中谷は先ほどのことを思い出して胸が苦しくなった。
靴を脱いでフローリングの廊下へと進む。数歩進んで振り返ると、同じく靴を脱いだ名前と目が合った。

「中谷さん?どうしました?」

そう優しい声で尋ねられ、中谷は足元に視線を落とした。
シュルとスーツ特有の衣擦れの音がして、中谷は背中から抱きしめられた。耳元で、もう一度名前を呼ばれる。
................名前は、自分以外にもこうして優しくするのだろうか。優しい声で名前を呼んで、大きな手で抱きしめて、そして愛を囁くのだろうか。

「....名前、」
「はい?」
「........君は........、」

しかし、それ以上中谷の口から言葉は出なかった。きっと決定打を恐れているのだ。もし、自分以外に好きな相手がいるか聞いて、肯定されてしまったら?そして別れを切り出されてしまったら?
酔いの醒めぬ頭で、とにかく名前を引き止める手段を考える。だって、もう無理なのだ。名前がいなくなるなんて、そんなことは考えられない。2人で暮らす部屋も、おはようやただいまに返ってくる声も、自分を抱きしめる温かい腕も、今さら手放せる筈がないのだ。

「仲谷さん?本当にどうしたんですか?体調でも....」
「....問題ない。」

そうだ、今更自分を捨てることなど許せるだろうか。アタックして来たのは名前なのだ。アタックして、男になど微塵の恋愛感情も持たなかった自分をここまで変えたのは名前だ。それが今更他の人間に乗り換えるなんて、許せる訳が無い。
そこでふと中谷の頭に浮かんだのは、景虎の言葉だった。
名前から手を出してこないならこちらから誘えばいい。名前は優しい。だからきっと拒みはしないだろう。その優しさにつけ込んでしまえばいいのだ。自分でも浅ましいとは思うが、なんと言われようと名前を手放すわけにはいかない。きっと名前がいなければ、自分は生きていけない。息がうまく出来なくなって、心臓が締め付けられて、死んでしまうに違いない。それに、そうなるようにしたのは他ならぬ名前なのだ。もう、中谷はなりふりなど構っていれなかった。
腹に回された名前の手に己の手を重ねる。先程より力の強くなった腕に身を任せ名前の方を見る。目の前にあるのは微笑む名前の綺麗な顔だ。抱き締められたまま無理に身体を捻ってその薄い唇に己のを重ねる。数秒ただ触れただけなのに、中谷は全身が熱に犯されていくのを感じた。

「............中谷さんからキスなんて、珍しい。本当にどうしたんですか?」

くすくすと微笑を伴って、名前が中谷の髪にキスをする。わずかに緩んだ腕の中、向き合うように体勢を変えてもう一度口付けた。名前の首に腕を回して少しだけ背伸びをする。閉じた名前の唇を舐めると名前の唇が開いて中谷の舌を受け入れた。

「........ん、ふ........は........ぁ....っ」

必死に名前の舌にしゃぶりついていると、強く腰を抱き締められた。そして反撃とばかりに名前の舌が口内に侵入してくる。
ぬるぬると器用に動き回るそれは中谷の歯列をなぞり上顎をつつく。その快感に思わず身震いすると、伝わる振動で名前が笑ったのが分かった。

「........随分、積極的ですね」
「....................悪いか」
「いいえ」

やっとお互いの唇が離れ、赤くなった顔で名前を見上げると、名前は嬉しそうに笑っていた。
その顔を見て、中谷は覚悟が決まった。やはり名前を手放すことは出来ない。ならば恥も外聞も脱ぎ捨ててしまおう、と。どうせ知っているのは名前だけなのだから。

「....名前、」
「はい」
「................君が、好きだ」
「.......え、.........と?俺も中谷さんが好きですよ」
「....愛している」
「!!」

目を見開いた名前が本当にどうしたんですかと問いかけてくる。その声が嬉しそうに聞こえるのは、決して気のせいではないはずだ。そう言えば、今まで言葉に出すことは少なかったかもしれない。いつだって名前から与えられる愛にうなづいて、自分もだと明確な言葉にはして来なかった。
そう考えたら、もう何も恥ずかしくなかった。もう一度背伸びをして、名前の耳元へ口を寄せる。

「....したい....名前」
「っ」

正しい意味が伝わったようで、触れている名前の体温が熱くなっていくのを感じる。

「....明日は、部活無いんですか」
「あぁ、休みだ」

挑むような声で答えれば、眉尻を下げて名前が笑う。
そしてもう一度抱きしめられて深い口付けが降ってくる。先程は抱きしめるだけだった腕が明確な意志を持って中谷の腰を撫でた。久しぶりの接触に名前はちゃんと発火してくれたらしい。
その事に満足しながら、中谷は無意識に名前の足へと腰を擦り付けた。






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