短編(♂) | ナノ


昼休み、目の前で飲み終わったお汁粉の缶を持って緑間が立ち上がる。長い脚ですとすとと廊下に出て行く後ろ姿を見送って、俺はため息を吐く。

「どったの、名前くん」
「いや、緑間背ぇ高えなと思って」
「あー、190超えてるもんね、真ちゃん」

やっぱりバスケ部だと伸びるもんなのだろうか。
そのわりに高尾は小さいよな、と口には出さずに高尾を見ると伝わったらしい高尾がこのやろうと笑う。

「オレは標準サイズ!真ちゃんがでかいんだって」
「ま、高1の身長じゃねぇよなー」
「そういう名前くんだってオレよりでかいじゃん」

むかつくー、とそんなこと思っていない顔で言って、高尾が俺のパンを勝手にかじる。
まぁ俺だって校内でも大きい部類に入る。だが緑間よりは小さいのだ。
お、これ美味いね。とマジで人のパンを食べようとする高尾からパンを取り返すと、ちょいちょいと指で呼ばれる。

「なに?パンはやらんぞ」
「パンはいいから、耳かして?」

声を小さくする高尾につられて俺も声を小さくしながら、こそこそ二人で顔を突き合わせる。

「やっぱさ、男としては彼女より背が低いって嫌なんしょ?」
「………………嫌だけど」
「だよねー」

けたけたと面白そうに笑って、牛乳だよ牛乳、と高尾がいらんアドバイスをしてくる。
そう、高尾が言うように緑間は俺の彼女………恋人だ。男相手に彼女というのも変かもしれないが、俺が男役なのでまぁ緑間が彼女ということになるのだろう。男同士だし知っているのは高尾くらいなので周りに聞こえないよう配慮してくれるのはありがたい。が、こんにゃろう。面白がりやがって、と高尾の足を蹴ろうとしたら急に目の前にあった顔が離れていった。
見ればいつの間に戻って来たのか、緑間が高尾の頭を鷲掴みにしていた。
さすがバスケ部、手がデカい。いや、手もデカい。

「いたたたっ、真ちゃん痛いって!」
「顔が近いのだよ」
「ごめんごめん!」

ふんっと鼻を鳴らして緑間は高尾を解放し俺の隣に座った。

「おかえり」
「……ただいまなのだよ」

律儀に返してくれる緑間に内心鼻の下を伸ばしていると「何を話していた」と聞かれた。

「ん、大した話はしてないよ」
「あんなに近づいておいてか?」

…あらら、やきもち?

「んー、身長の話をね。男として、彼女より背が低いって悲しいよねって話」

拗ねる緑間に素直に言うと、少し考えるそぶりをして緑間は口を開く。
何を言うのかと思ったら、

「…俺は男だから、彼女という括りには入らないのだよ」
「………………まぁ、ね」

フォローなのか?それは。
高尾は俺と緑間の会話に口を両手で押さえて笑いをこらえている。マジ蹴ってやろうか。

「名前」
「ん?」
「俺は、名前の背が俺より高くとも低くとも、変わらず名前が好きなのだよ」
「!!…………ん、ありがと……俺も」
「………だが、そんなに伸びたいなら牛乳を飲めばいい」
「ぶふっ、真ちゃん俺と同じこと言ってるwww」

聞いていた高尾がそこでこらえきれずに噴出して、二人だけの空気は打ち切られた。
笑う高尾を嫌そうに顔をしかめる緑間は見ていて面白い。

「高尾と同じとは。心外なのだよ」
「おいー、失礼だな真ちゃん!」
「事実なのだよ」
「まったくさぁ、バカップルの話聞いてあげるオレに感謝しろよなー」

いつもの調子でそんなことを言う高尾に声がでかいぞと言おうとしたら、先に緑間が口を開いた。

「羨ましいのなら高尾も早く相手を見つければいいのだよ」

…………え、、えぇー?
まさかの言葉に緑間を見つめると、文句でもあるかと見つめ返される。
ん、文句ないです。
可愛い恋人に同意するため、俺は笑いながら1つ頷いた。




身長なんて
(でも牛乳は飲むんだね名前くん)
(とりあえず毎日飲むって決めた)
(……1L紙パック持参とは…)
(今日これ2本目)
(……アホなのだよ)


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