短編(♂) | ナノ

「やぁ、恭弥。」
「……どうしたの、名前。」
「恭弥のファーストキスは誰?」
「………は?」


















人の寄り付かない応接室。

「………何、突然。」

そこに名前と恭弥はいた。

「え?ちょっと気になったから。」

そう言ってココアを飲む恭弥に笑う名前。

「………帰ってくれる?」
「ファーストキスの相手、教えてくれたらね。」
「………言わない。」
「なんで?」

視線をそらす恭弥を許さず、その顎へと手を伸ばし自分へと顔を向けさせる。

「ねぇ、なんで?」
「…。」

じっと深緑色の瞳に見つめられ、恭弥は息を呑む。
そして次の言葉に目を伏せた。

「…もしかして、キスしたことない?」
「………悪い?」
「全然。」

今度は挑戦的に睨みつけてくる恭弥。
名前は妖艶に笑うと、自分の唇をぺろりとなめた。

「じゃあ検証しようか。」
「!?」

唇に当たる温かくて柔らかい感触。
ぬるりと口内に進入してくる舌。

「〜〜〜!?」

キスされた、と理解するまで恭弥は随分な時間を要した。

「……ッ……!」

歯列をなぞられ強く吸われたりして、くちゅりと口の端から零れ落ちた唾液に、恭弥はぎゅっと目を瞑った。

「……顔真っ赤。」

しばらくして離れた唇。
そして荒い息を繰り返す恭弥にかけられた言葉はそれだった。

「っ!誰の、せいだと…」
「俺だな。」

とても無邪気な笑顔で、名前は恭弥の頬を撫でながら口を開いた。

「どんな味だった?ちなみに俺はココアだったよ。」

恭弥、そのうち糖尿病になるよ?
そう続けられた言葉に、恭弥は恨めしそうな目で名前を見上げた。

「………耳、貸して。」
「うん?」
「……――――――。」

ぼそぼそっと呟かれた言葉。
そのすぐ後には恭弥お得意のトンファーが飛んでくる。

「……もういいでしょ。帰って。」
「うん、お邪魔しました。それと……」

ぱっと暗くなる視界。
また唇に何か当たる感覚がして、ちゅっと小さな音がする。

「ごちそうさま〜!」
「このっ!!」

ばきっと豪快な音を立てて破壊されたソファーを背に、名前はさっさと逃げていった。
自分の代わりに壊されたソファーと、真っ赤な顔の恭弥を残して。






不意打ちのファーストキス。

 「……ココアより甘かった。」

それは甘いココアの味。


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