長編 | ナノ


五晩目


夕食後、日課になりそうな文次郎の鍛錬に付き合ったあと、軽く風呂に入る。
そこで仙蔵と一緒になった。

「文次郎、ちゃんと寝ているか?」
「…おう。」
「やぁ、仙蔵。」
「名前、世話を掛けるな。」
「いいや、役得さ。」

そう言って私が笑うと、面食らった仙蔵はにやりと文次郎を見た。
しかし文次郎はよく解っていないらしく、私たち二人のやり取りに首をかしげている。

「だいぶ隈も薄くなったな。」
「ちゃんと毎晩寝ているからね。」
「やはり名前に頼んで正解だったな。」

ふふ、と綺麗に笑う仙蔵。もともと白い肌が湯気でもっと白く見える。

「女装の化粧は仙蔵がするんだろう?」
「もちろん。この鍛錬馬鹿に任せてはおけないからな。」
「聞いてるよ。女装の実習が散々だったってね。」
「…あれは女装に対する冒涜だ。」
「お前らうるさいぞ!」

あまりの言われように文次郎が真っ赤になって怒った。
酷かったという自覚はあるらしい。

「ま、私に任せておけばお前も人並みにはなるさ。」
「………人並みかよ。」
「それ以上を望むと?我侭なやつめ!」
「はは、期待してるよ。」

二人のやり取りに笑いながら体を洗う。
仙蔵は先に上がってしまったので二人でゆっくり湯船につかり、また他愛のない会話をする。
あぁ、なんだかすごく幸せな気分だ。

「そろそろ出ようか。」
「そうだな。」

風呂から上がり寝間着へ着替える。
文次郎があまりにも乱暴に髪を拭くので、思わず手ぬぐいを取り上げてしまった。

「乱暴すぎるよ。髪が痛む。」
「す、すまん。」

照れているのか、赤い顔の文次郎の髪を拭いてやる。
途中後輩が来たが、私たちを見て「失礼しました!」と叫んで逃げていった。
明日、どんな噂が学園に流れるか楽しみだ。

「さぁて、就寝就寝!」

とてもご機嫌な文次郎と並んで歩く。
部屋に着くと、文次郎はさっさと布団へもぐりこんだ。
枕元に置いた私の愛読書をぱらぱらめくりながら頭をかく。

「…難しい本だな。」
「西洋の医学書だよ。コツを掴めば難しくはない。」
「…ふーん。」

文次郎は私が隣に入っても何も言わなかった。

「消すよ。」
「おう。おやすみ。」
「おやすみ、文次郎。」

それどころか、笑顔で私にそう言って目を閉じたのである。
……慣れとは恐ろしいものだ。
だがしかし、私にとっては好都合。
一人微笑みながら、私も静かに目を閉じた。


 


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