三晩目
金属のぶつかり合う音。
とんと軽やかな音を立てて地に降り立つ。
「…もういい?」
「……もう少し…」
「さっきからずっとそう言ってやめないじゃない。」
はぁとわざとらしくため息をつけば、泥に汚れた文次郎の顔が歪んだ。
両手に苦無を構えていた私は、ゆっくりと構えをとく。
暗くなった校庭。頃は戌の刻。
夕食後、前夜の約束通り文次郎の鍛錬に付き合っていた私は、正直もう限界だった。
かたや武闘派を誇るギンギン忍者、かたや頭脳派を自負する貧弱忍者。
体力の差は歴然である。
「疲れた。風呂入って寝よう?」
「…昨日付き合うといった。」
私の態度に、不満だと言いたげな文次郎がやっと構えをといた。
「もう十分だろう?死にそうだ。」
「……それは困る。」
素直に私がそう告げればしぶしぶと文次郎が寄ってくる。
あぁ、こんなに汚れて。
「風呂行こう。」
黒く汚れた文次郎の頬を擦り笑う。
学年の中でずば抜けて、よく言えば大人っぽい、悪く言えば老けている文次郎の、こういうところが好きだ。
意外と子供っぽくて熱血で、は組の留三郎と喧嘩したり、簡単に喜車の術に引っ掛かったりしてしまうところも好きだ。
後は真面目なところも、努力家なところも、優しいところも、意外と寂しがり屋で脆いところも。
とどのつまり、潮江文次郎という男が好きなのである。
「なんか久々に体動かしたかも。」
「忍たまのくせにか?」
二人で並んで風呂へ向かいながらの他愛のない話。
「私は頭脳派だからね。」
「…仙蔵みたいなことを言うな。」
「仙蔵は女装がうまいだろう?私には無理。」
「…似合うだろう、名前なら。」
「嬉しくないよ文次郎。」
何を想像したのかほんのりと赤くなる文次郎。
可愛いけれど内容が可愛くない。
「それに、今度女装するのは文次郎だよ?」
「うっ…。」
「きっと可愛いだろうね。」
「…可愛いわけねぇだろうが。」
拗ねているのか、目をそらす文次郎の頭をなでる。
ついでに風呂場へついたので髪紐も解いてしまった。
「っ!?」
目を白黒させている文次郎は、可愛い。
仙蔵や留三郎に言ったら正気かと疑われそうだが、私はいたって正気であり本気だ。
好きな子が可愛く見えないほど、私はまだ枯れてはいないのである。
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