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話が終わり、小十郎と政宗を客間に残してリビングへ戻った面々。
「さて、とりあえず部屋割りとこっちの常識を教えないと。」
「夕飯、買ってきただけじゃ足りないよな。」
「ご飯もね。もっと大きな炊飯器じゃないと。」
「あとは服だな。今日はもう遅いが…」
「あ、絨毯替えなきゃ。血がついちゃったし。」
つらつらと並べられる問題に名前がため息をついた。
「…明日は休みだな。」
「車出してやろうか?」
「あぁ、頼む。ついでに夕飯の買い物もな。」
「おぅ。」
そこで3人の会話は途切れた。
そしてちらりと幸村たちを見る。
「「「俺が行く。」」」
3人の声が、一部の狂いなく揃った。
「俺は車出すから買い物だよな。」
「夕飯作るのは俺だからな。俺が行かなきゃ話にならん。」
「先生も名前もずるいよ!」
誰もみな、幸村たちへいろいろ教えるのが相当の苦労だと分かっているため譲らない。
「俺説明下手!」
「夕飯抜きにするぞ。」
「そーそ、諦めなって。」
「先生も車だけ貸してくれれば良いが?」
「お、おい名前!そりゃねぇだろ!」
ぎゃいぎゃいと騒ぎだす3人に唖然としたままの幸村たち。
「…………じゃあ俺が買い物行くからな。」
…それからしばらくして、やっと話はまとまった。
「他は部屋分けと先生の補佐。先生はこの世界の説明よろしく。」
「「…りょーかい。」」
はぁ…と肩を落とす二人を横目に名前は幸村たちへ向けて手招きをした。
しかし6人は誰が呼ばれているのか分からず首を傾げる。
「外の話もしなきゃいけないから何人か俺と買い物。残りは先生から説明受けて。」
その言葉を聞いた途端、6人はいっせいに手をあげた。
「某、行きたいでござる!」
「俺を連れてってくれ!」
「俺もいろいろ見たいねぇ!」
「我を連れていけ。」
「…………。」
さりげなく風魔も無言の主張。
「俺様大人しくしてるから!」
睨みあう6人にまたため息が出た名前。
(…今日だけで相当幸せを逃がした気が…。)
「…明日もあるし、交代でだけど全員連れてくから。」
そう言っても譲り合う気はないらしい6人。
「………はぁ〜…。」
名前の口からまたため息が漏れる。
「……じゃんけんで決めれば?」
そんな名前と6人を見かねた他がそう助言した。
「…じゃんけん?」
「なにそれ?」
なんの事だと首をかしげられ、そういえば戦国時代にじゃんけんは無いんだと思いながら他は必死に説明した。
「じゃんけんは『グー』と『チョキ』と『パー』があって…」
手で形を作って見せ、「これがグーで、」などと教えている。
「…保育園みたいだな。」
そんな光景に、名前の隣に立ったアキは呟いた。
「ふっ、確かに。」
戦国武将がただの大学生に教えられチョキを作ったりパーを出したり…なんとも微笑ましい。
「……うん、だいたい出来たね。」
保育園から発展して「他には保育士が向いてそうだ。」とか「いや、介護士でも。」なんて会話が交わされているとは知らず、他が2人を振り返る。
「あぁ、お疲れさん。じゃあじゃんけんして。連れていくのは2人だからね。」
6人が輪になって他の掛け声に合わせて右手を振り上げる。
(おいおい、何故にそんなに真剣なんだい?)
各自から感じられる闘気に思わず顔がひきつった名前だった。
「じゃあ行ってくる。」
「行ってらっしゃい。気を付けてね。」
結局名前と行けることになったのは佐助と元就だ。
2人とも名前の服を借り、見た目はしっかり現代人だ。
佐助に至ってはトレードマークのペイントまで落とされた。
「はい、じゃあまずこれが車って乗り物。馬よりずっと速く走るよ。」
おぉ〜と興味津々に車を眺める2人。
名前はドアの開け方を教え、後部座席に座るよう指示する。
「狭い。」
「文句言うな毛利。」
毛利のシートベルトをしてやりながら佐助に目をやると、勢い良く引いたのかシートベルトが途中で止まっていた。
「あぁ、やってやるから。壊すなよ。」
「…ごめん。」
静かになった佐助の方へ回りシートベルトを引く。
「これ速く引いたり突然引いたりすると出なくなるから、静かにゆっくりな。」
佐助の背のシートに左手をつき佐助の上へ身を乗り出す。
(…挿し口が…)
手探りで探すが、後ろのシートベルトなぞ使わないのでなかなか見つからない。
ちなみに、いつもはしないのに今日したのは2人が騒がないようにである。
そのうち佐助が身じろぎするので何かと顔を見たら真っ赤だった。
「…猿飛、どうした?」
「っ!な、なんでもっ!」
必死に首を振る佐助に首をかしげながらもやっとシートベルトを止めた名前は運転席へ乗り込んだ。
「動くぞ。」
「う、うん。」
3人を乗せて走り出した車。
その動きと速さに佐助と元就は感嘆の声をあげるばかりだった。
「ねぇ名字さん、あの光ってるの何?」
火が燃えてる訳じゃないでしょ?
そう言って佐助が指差すのは街灯。
「おぉ!小さな日輪よ!」
至るところにあるそれに、元就は目を輝かせる。
「日…?…あぁ、太陽の事か。」
近くのスーパーへ向かうため大通りへ車を右折させながら名前が答えた。
「これは電灯って言うんだ。火じゃなくて電気で光る。」
「…でんとう?でんき?」
「…日輪ではないのか。」
「日輪は朝になれば出るさ。電気ってのは、あー…雷だ。あれと同じようなのを利用してるんだ。」
…へぇー。といまいちわかっていないような返事だが、もうスーパーに着いたので佐助たちの興味は別の物へと移った。
「ここは?」
「スーパー。いろいろ買い物ができる。昔で言えば市みたいなもんかな。」
シートベルトの外し方とドアの開け方を教えると2人はすんなりと車から降りられた。
「…よし、」
さぁここからが難問だ。
「ここは人も多いし知らないものもいっぱいある。が、絶対俺から離れないように!」
佐助に一番でかいカートを押させ、名前たちはスーパーへ入った。
「…!」
「……!!」
「「………!!!」」
一応名前の後をついて回るが、驚いてばかりの
2人はだんだん動きが遅れてくる。
「おい、猿飛…」
野菜を物色しながら振り返った名前は、ずいぶん後ろをばらばらに歩く佐助と元就に笑顔のまま殺気だった。
「「!!」」
流石は戦国武将。
名前の殺気に瞬時に反応し、笑顔の名前を見て凍りついた。
ちょいちょいと手招きすればすっ飛ぶように駆け寄ってくる。
「俺、離れるなって言ったよな。」
「ご、ごめんつい…」
「…き、貴様が早いのだ…。」
うつ向く佐助と目をそらす元就。それを見て名前の笑顔がひきつった。
…がしっ
「!?な、なにをっ…?!」
「はぐれるからです。」
「だからと言ってこのようなっ!」
パニクる元就の手をしっかり握り、名前はにっこりと微笑む。
「じゃあ首に縄でもつけてやろうか?」
「「!!」」
すっと二人の顔が青ざめ大人しくなる。名前が本気でやると悟ったからだ。
「…よろしい。」
それからは特に問題もなく(元就が団子を見てねだったのは別だが)買い物は終わった。
「はぁ〜すげぇ量だぜ。」
佐助に一袋持たせ、自分も両手に二袋ずつ下げたビニール袋はずっしりと思い。
「とりあえずでかい鍋も買ったし、」
抱えなければいけないほどの鍋を二つも持たされた元就は不機嫌極まりないと言う表情で名前を睨む。
「はいここに置いて。」
しかし名前はそんな視線など気にもせずトランクへ荷物を入れ、さっさと運転席へ乗り込んだ。
置いていかれてはまずいと慌てて車に乗る2人。真面目にシートベルトをする。
そんな2人を待って、名前はゆっくりと車を出した。
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