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幼い頃にこの家で見た不思議な光景を、俺は今でも覚えている。
庭の草の中に寝ころんでいたときの事だ。まだ5歳にもなっていなかった俺がふと見たそこに彼はいた。
緑の草の葉の影で、小さな少年が遊んでいた。
じっと見つめる俺に気付かなかった少年はすぐにどこかへ行ってしまったけれど、俺は今でもその光景を鮮明に覚えている。
親指姫を彷彿とさせる小さな小さな少年。
それはまるでおとぎ話のようで、子供の俺はすぐにじいちゃんとばあちゃんのところへ走った。
興奮気味にその話をすると、じいちゃんはとても優しい顔で、悪戯っぽく言った。
『いいかい、名前』
『その子はね、きっと小人さ。』
『ずっと昔から家にいる、妖精さんなんだよ。』
『だけど、これは秘密だ。』
『誰にも言ってはいけないよ。』
そう言って人差し指を口の前に立てるじいちゃんに、俺は何度も頷いた。
『いい子だ。』
じいちゃんの節くれだった大きな手が俺の頭をなでる。向こうで話を聞いていたばあちゃんが、やっぱり優しい顔で笑っていた。
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