長編 | ナノ


6


それから数日
家中の掃除と庭の草刈りを終えた男にばれることなく私たちは床下で暮らし始めた。
調味料も電池も補充されたのでまた快適な生活に戻りつつある。人間からの借り暮らしとなったが、男は毎日のんびりと縁側でパソコンをいじっているだけなのでそれほど危険が増えたわけではなかった。

「仙蔵、様子はどうだ?」
「特に動きはない。」

上級生で交代で男を見張る。
危機感の薄い後輩たちは男に見つかりにくい家の裏でいつも通り遊んでいる。

「…また今日も1日パソコンか。」

天井の梁の上。
私の隣に座った文次郎が男を見つめた。確かに男は今日もパソコンの前にいる。

「交代だ。すぐ留三郎も来る。」
「そうか。喧嘩して見つかるなよ。」
「ばっ、バカタレィ!」
「ははは。」

こそこそと話して私は立ち上がる。梁を渡って外へ出ると小さいのがわらわらと草の中で遊んでいた。

「あ、立花先輩だぁ〜!」
「げっ、しんべヱ、喜三太!」
「げって何ですか〜」
「あ、いや…すまん。あまり大騒ぎするなよ。見つかるとまずいからな。」
「「はーい!」」

素直な返事の二人。不安だ。
ふよふよと楽しそうに笑いながら林の方へかけてゆく。きっとナメクジや食べ物を探しに行ったのだろう。




しばらく遊んでいる後輩たちをみていると雲行きが悪くなってきた。
そろそろ引き上げさせようかと考えているとあっという間に雨が降り出す。季節外れの夕立だ。

「みんな急いで軒下へ!」

バケツをひっくり返したような雨。伊作たちが慌てて後輩を誘導する。バタバタ駆け込んでくる後輩のなかにさっきの二人はいなかった。
きっと遠くまで出てしまって戻ってこられないのだ。探しに行こうと飛び出したときだった。

「うわ、すげぇ雨!」

バタバタ足音がして男が縁側のガラス戸を締めにきた。私と同じく探しに出ようとしていた長次と二人、慌てて身を潜める。

「やばいなぁ、庭に川ができてらぁ。」
「「わーっ、立花せんぱーい!」」

ため息混じりの男の声と一緒に聞こえた後輩たち悲鳴。
まずい、と男を見上げるとやはり声に気づかれてしまったようだ。じっと薄暗い庭を見つめている。

「仙蔵、大変だよ…!」
「わかっている!あの男より早く二人を見つけて連れ戻さなければ…!?」

いた。
二人が背の高い草の茎に抱きついているのが見えた。しかし最悪なことにその根元は川になっている。あの大きさと流速では助けにいけそうにない。

「…あれ。」

どうしたら良いのか考えあぐねていると、突然男が縁側から飛び出した。ズボンやサンダルが濡れるのもかまわずまっすぐに二人のいる草に向かう。
あぁ、油断していた。
人間は危険だと教えられてきたのに。捕まえられては見世物にされるか、はたまたどこかへ売り飛ばされるか。
そうなる前に上級生全員で男を始末してしまおうと物騒な事を考える私たちとは裏腹に、男はゆっくりと二人のしがみつく草に手を伸ばした。

「せ、せんぱっ」
「助けて〜!」

そして二人の足下に手を添える。

「大丈夫、何もしないよ。」


雨にかき消されそうになりながら聞こえた声は、とても優しいものだった。


 


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