長編 | ナノ


東条くん


珍しくバイトのない日、学校に来た東条は教室から退屈そうに校庭を見下ろしていた。

「と、東条さん?」
「…あー…?」

その後ろ姿を心配そうに見る相沢と陣野。心ここにあらずな東条の返事に二人顔を見合わせる。

「そんなに会いたいなら保健室行ってくりゃ良いじゃないっすか。」
「とららしくない。」
「…保健室にゃいねぇよ。」

顎で東条が何か指し示すので二人は東条の隣に立ち校庭を見下ろした。
そこに見えるのは芝生に寝転ぶ他とその隣にいる名前の姿。

「…珍しいな。」

二人戯れているらしい。時々他が名前にちょっかいをかけるのが見える。

「仲良いっすよね、あの二人。」
「…庄司、」
「おっと。」

むぅっと膨れた東条が椅子を蹴って立ち上がる。

「我慢できねぇ!行ってくる!」

言うが早いか教室を飛び出していく東条。笑いながらそれを見送った二人は顔を見合わせて肩をすくめた。










「他!」

大きな声が私を呼ぶ。久しぶりに名前とグダグダしていた私は聞き慣れたその声に体を起こす。

「おや、東条君ですか」
「とら、今日はバイト無いの?」

のほほんと首を傾げる名前に無い!と乱暴に返事をして東条君は私へとタックルをかました。

「ちょ、自分の図体のでかさを理解しなさい!」
「わりぃ!」

腹に衝撃を食らってひっくり返る。謝るわりに東条君に退く気配はない。
名前、笑ってないで助けろ。

「甘えん坊とら発動〜」
「甘えん坊…」

私の腹の上でぐりぐりと額を押し付けてくる東条君。なるほど、これは甘えられているわけですか。
まぁ猫科である虎にじゃれられるのは命がけだそうですから仕方ないですね。

「他、俺コンビニ行ってくる。」
「そうか。」
「神崎くん午後からくるっていうから、そのまま教室行くね?」
「あぁ。」

名前は空気を読んだのかそう言って去っていく。

「東条君、重いですよ。」
「……重くねぇ」
「そりゃあ乗ってる方は重くないでしょう。」

硬い髪を撫でてやると腰に回っていた手から力が抜くていく。でも退きはしない。

「困った人ですね。」

久しぶりに会ったのだから甘えられるのも甘やかすのも嫌ではない。しかしここは校庭。周りから丸見えなのだ。
彼は外聞など気にしないからいいが、私は恥ずかしいものは恥ずかしい。

「東条君、保健室へ行きましょうか。」
「?」
「ここだと人目に付きます。保健室で、たっぷり甘やかしてあげますよ。」
「!!ほんとだなっ!?」
「えぇ。」
「よし!」

きらきらしたかと思うと、私を肩に担ぎ上げて立ち上がる東条君。おお、流石。

「ほっけんしつ〜っと。」

上機嫌な東条君に笑いながら視線を上げる。三階の窓からこちらを見ている相沢君と陣野君と目があった。
私が手を振ると二人は顔を見合わせて小さく手を振り返した。

「他?」
「よしよし。」
「な、なんだよ…」
「愛されてますね、君は。」
「は?」
「こっちの話ですよ。」

窓から保健室に連れ込まれて、ひんやりした床へ足をつく。

「ふふ、もちろん、私もたっぷり愛してあげますけどね。」

そう言って東条君の赤い頬へと手を添えた。照れくさそうに笑って抱きついてくる東条君。

デカい虎でも猫科は猫科。
可愛いんだから仕方ないですね。


 


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