長編 | ナノ


神崎くんの誕生日


「神崎くん。」

朝、廊下で聞き慣れた声が自分を呼んだ。なんだと振り返る前に背後から腕が伸びてきてぐいと引き寄せられる。

「…名前」
「おはよ」

背中に感じる他人の体温と自分の首の前で交差された腕。自分より背の高い男に抱きつかれて、神崎は鬱陶しいと背中に張り付く男の足を踏みつけた。

「離せコラ」
「いたたたたた。足の骨折れちゃうって。」
「折れるか馬鹿。」
「名前くん、いつにもまして機嫌いいね。」
「おはよ夏くん。まぁね。」

ニコニコと二人を見ていた夏目は分かっていて名前へそう話を振る。名前は神崎の背から離れないまま同じように笑顔を返した。

「今日のお昼一緒に食おうよ。」
「…いつも食ってんだろうが。」
「今日は保健室で。」
「はぁ?そんな金ねぇよ。」
「大丈夫。俺の奢りだし。」
「…なら付き合ってやる。」
「ありがと!」

歩きにくい、と睨まれて名前はやっと神崎を解放した。ようやく自分の隣を歩き始めた名前の顔を盗み見て、神崎はわずかに息を吐く。名前の行動は心臓に悪い。
3-Aの教室に着く。おはようございますと声をかけてくる部下に軽く答えて、いつものように神崎は定位置のソファーへ座った。しかしいつもと違い名前は立ったまま。

「…?」

不思議そうに名前を見る神崎の意図を読み、名前は笑う。

「今日は神崎君のわがままを俺が何でも聞いてあげる日。」
「……なんだそりゃあ」
「…あれ?」

意味が分からんという顔をする神崎に今度は名前が首をかしげた。もしかして気づいていないのだろうか。名前が夏目を見ると楽しそうに笑っていた。

(神崎くん、今日が何の日か忘れてる。)

「なら自販行って来い。」
「ん、行って来ます。」
「いってらっしゃ〜い。」

まだ首をかしげる神崎と笑いの止まらない夏目と城山に手を振って、名前は教室を出て行った。





「神崎くん、お昼行こう、お昼。」
「おぅ。」

朝からずっと至れり尽くせりだった名前に神崎はとても機嫌がよかった。いつもはソファーの上から動かず膝枕を要求してくる男が自分のためにあれこれと動いてくれるのだから当然といえば当然である。
結局名前の考えは分からなかったが神崎はあまり気にしていなかった。
ぞろぞろと四人で保健室へ向かって歩く。ドアマンよろしく戸を開ける名前に促され保健室に入ると中央のテーブルにはすでにいくつも皿が用意されていた。

「名前遅い。」
「ごめん。神崎くん、どうぞ。」

席へエスコートされ他が料理を並べる。

「今日はフルコースです。デザートもありますからね。」

おお…!と沸き立つ三人。ごゆっくり、と微笑む他に四人は食べはじめた。

「………うめぇ。」
「さすが他。」
「他くんほんとプロだね〜。」
「あぁ。」

どこぞの高級レストランのような料理に舌鼓を打ちながら四人は食事を続ける。

「神崎くん、これおいしいよ。食べる?」
「…食う。」
「じゃあはい、あーん。」
「ぶっ!??ばっ、かやろ!!」
「痛!神崎くんすねはだめっしょすねは…」

テーブルの下で神崎に思いきり足をけ飛ばされ名前は涙目になった。その隙に神崎にフォークを奪われ「あーん」の夢が消えた名前。

「………確かにうめぇ。」
「でしょ?…てか、足いてぇ。」
「…ふん。」

そんなことをしながら四人は料理を楽しみ、皿がみんな空になった頃。他がケーキを持ってきた。神崎の目の前に置かれたケーキの上には[Happy Birthday]の文字。
それを見て神崎はやっと今日が何の日か気づいた。

「神崎さん、」
「誕生日、」
「「「おめでとう!」」」

三人がどこからか出したクラッカーを引く。三人の声と一緒にクラッカーの小気味良い音が響いた。そんな大っぴらな祝われ方に神崎は顔を真っ赤にした。

「あ、アホか!」
「えー?あ、神崎くん照れてる?」
「誰が照れるか!馬鹿!」
「照れてるよね、夏くん?」
「照れてるねー、神崎君。」
「照れてねぇって言ってんだろ!」
「顔真っ赤!」
「うるせぇえ!!」

わいのわいのと騒ぎ出す三人。憎まれ口を叩きながらも嬉しくて仕方ない神崎とそんな神崎に自分も嬉しくなる名前。そして二人が可愛くて仕方ない夏目と神崎の誕生日を祝えたことが嬉しい城山。

貴男がこの世に生を受けたことに、感謝を。









神崎くん誕生日おめでとー!
間に合わなかった…。ほんとすみません…!


 


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