長編 | ナノ


陣野くん


彼は石矢魔には数少ないタイプの人間。
真面目でちゃんと受験勉強をしていて、尚且つ喧嘩も強い。もう言うことなしですね?

「こんにちは。」
「…あぁ。」

図書室で勉強している陣野君を見つけた。こっそり近寄って隣に座ると、彼はとても驚いたようで細い目をぱちぱちと瞬かせる。

「受験勉強?偉いですね。」
「…そんなことは、ない。」

小さな声でのやりとり。ふふと笑って持ってきた本を開く。ぱらぱらと何ページかめくっていると彼はまた手元のノートへ視線を戻した。
少しの間真面目に文字の列を追って真剣な彼の横顔を眺める。

「……なんだ」
「いえ、格好良いなと思いまして。」
「…なにを、」

私の視線に気づいた陣野君は困ったような顔をして私を見る。

「勉強しにくい。」
「それはすみません。」

続きをどうぞと促すとしぶしぶ勉強を再開する。そんなことを何回か繰り返して遊んでいるうちに、陣野君の手がぴたりと止まった。
いい加減怒られるだろうかと思ったが、違うらしい。

「…陣野君?どうかしましたか」
「……あぁ、ちょっと、な…」

歯切れの悪い答え。じっと見つめているとついとノートが私の前に差し出された。

「これ、なんだが…」

どうやら解き方が分からない様。控えめに指差された問いは確かに石矢魔の生徒には難易度の高い問題だ。

「これは公式と与式をいくつか変形しないといけませんね。」
「変形…そうか」
「使うのはこれとこれ。与式の文字を消せるように形を変えると良いですよ。」
「わかった。」

ノートの隅に使う公式を書く。彼は神妙な顔で聞いていて、シャーペンを返すとさらさらと言ったとおりに問いを解き始める。

「……解け、た。」
「良かったですね。」
「あ、ありがとう…」

邪魔にして悪かったと小さな謝罪。

「それで、悪いんだがもう少し教えてもらいたい。」
「構いませんよ。」
「ありがとう」

ほんのり照れくさそうに笑う陣野君。これはお持ち帰りで良いんですか?いただきまry

「友人?」
「他。」
「?」
「友人は弟もですよ。私は他です。」
「あー………………他」
「はい、なんですかかおる君」
「…その呼び方はやめてくれ。」
「えー?可愛いのに。」
「嫌だ。」
「残念。」

肩をすくめて陣野君の隣で大人しく読書に励む。何度か説明を求められて解き方を教える。

そして数時間。

「陣野君、もう閉館ですよ。」
「ん、あぁ。もうそんな時間か。」

アナウンスの入る館内はもう人もまばらにしか居ない。

「今日はありがとう。助かった。」
「どういたしまして。」

二人一緒に外へでると、もうずいぶん暗くなっていた。

「…他、」
「はい」
「その、礼をしたいんだが。」
「気にしなくても良いですよ」
「そうはいかない。夕飯奢る。」
「んー、嬉しいお誘いですけど。こっちの方が、」
「!?」

なんだとこちらを見る陣野君を立ち止まらせて、その薄い唇を奪う。
触れるだけの軽いキス。吃驚した顔で固まった陣野君は状況を理解すると顔を真っ赤にした。

「な、に、してんだ…」
「キス。」
「……………。」
「そんな嫌そうな顔しないで下さいよ。」
「…別に嫌そうな顔は…」
「じゃあ嫌じゃなかったんですね。」

意地悪したら返ってきたのは否定でも肯定でもなく沈黙。恥ずかしそうに目を泳がせて横にも縦にも見えるように首を振る。
おや、これは脈あり?

「陣野君、帰りましょうか。」
「あ、あぁ…」
「もうお礼は頂いたので、夕飯はうちでいかがです?」
「いや、それはあまりにも図々しいだろ…」
「気にしないで下さい。もちろん無理にとは言いませんが。」
「………じゃあ、よろしく頼む」
「はい。何かリクエストはありますか?」
「他が作ってくれるなら何でも。」

あぁずきゅんと貫かれた!
やっぱりいただきまry


 


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -