神崎くん
昼休み。
私物化した保健室で昼飯を作っていると無遠慮に扉が開いた。
「邪魔するぜ」
「珍しいですね」
開けたのは私の幼なじみお気に入りの神崎君。いつものお供は誰もおらず彼一人。
「…………。」
無言で私のそばまで来るとフライパンの中の炒飯をじっと見つめる。
お腹空いてるんですかね。
「お昼は食べましたか?」
「…食ってねえ。」
「いつものお供君たちはどうしたんです?」
「…どうもしねぇよ。」
そういう割にいまいち言葉に勢いを感じない。みた目通り手が早くて、見た目に反して照れ屋で純情な彼のことだから、きっと名前に何かちょっかいかけられてぶちギレて教室を飛び出してきたとかだろう。
私がちらりと彼の様子を窺うと、ぐうぅっと主張された。
教室を飛び出してふらふらしていたら食べ物の匂いに釣られた、と。
「…!!」
途端に真っ赤になる彼の顔。なるほど名前が可愛いという気持ちがよく分かる。
「はははっ、お昼、よければ食べていきますか?」
「…………金がねぇ。」
「私が誘ったんですから、金なんかとりませんよ。」
座って待っててくださいとソファーを示すと素直に座る神崎君。腹が減ると人間も可愛いもんですねぇ。
皿二つに盛り付けた炒飯をテーブルに置く。
「どうぞ。」
「…おう。」
神崎君の向かいに座りレンゲを持つ。分かりやすく表情を緩めて食べ始める神崎君に思わず微笑ましくなった。
私もいただきますと手を合わせて食べる。ふむ、今日もなかなかの出来。
「お味は?」
「…うめぇよ。」
もぐもぐする神崎君によかったと笑いかけて食事をすすめる。食べ終わったところでデザートに杏仁豆腐を出すと神崎君の目がわずかに輝いた。
甘いもの好きなんですかね。
「これもどうぞ。」
「おう。…テメェのは?」
「一人分しか作ってないんですよ。」
「……いらねぇ。」
「遠慮なんて似合いませんよ。」
笑うと神崎君に睨まれた。これから思いっきり貴男の嫌がることをするつもりですから、お詫びにね。
「ちょっと用事があるので出てきます。」
「?」
何でもないような顔で嬉々として杏仁豆腐を食べ始める神崎君に背を向け、廊下に向かいながら幼馴染の携帯へコールした。
「名前?」
『お。他、神崎くん見た?』
「保健室。なんかしたんだろ。」
『んー、まぁちょっと。』
「どうせセクハラまがいのコトして神崎君がキレて暴れて居た堪れなくなって逃げ出してきたんだろ?」
『…まるで見ていたようだ。ストーカー?』
「容易に想像できるよ。」
通話口の向こうから聞こえる間延びした声にため息をつく。早く回収に来な、と告げるともう向かってると返ってきた。すぐに足音が聞こえてきて階段の角から名前が姿を見せる。
「神崎くんがお世話になったね。」
「いいよ。たまにだし。」
「神崎くーん。」
「なっ!?」
がらがらっと神崎君よろしく無遠慮に扉を開けて名前が乱入した。
「あ、いいなー、杏仁豆腐?ひとくちひとくち。」
「てめぇ友人!こいつ呼びやがったな!?」
「ちゃんとお詫びに杏仁豆腐あげましたでしょ?」
「!!」
やられた!と俺を睨む神崎君。ちゃっかり一口貰った名前は満足そうに神崎君の手を握る。
「ほら、みんな心配するから帰ろ?」
「ガキ扱いすんじゃねぇ!」
「ヨーグルッチおごるよ?」
「うっ…」
名前にひっぱられながらもしっかり杏仁豆腐まで完食した神崎君は「ごちそーさん」と呟いて名前と一緒に保健室を出て行った。
何だかんだ言いつつ名前には勝てないんですねぇ、神崎君は。
今日は面白いものを見た日だ。ひとりでくくくと笑いながら皿を流しへと置いた。
「…さて、洗い物っと。」
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