真夏日のことだった
日差しが髪の隙間をすり抜けて首筋をジリジリと焦がしているような気がする
暑さにたまらず自販機でジュースを買おうと彼女の服の裾をちょんちょんと引っ張れば一瞬ぽかんとした顔をした後ふわりと笑った
ほんに…、ほんにむぞらしかぁ…
彼女は「ココアがない…」とすこしむくれて、ミルクティーのボタンを押した
「こげん暑か日に、ココアば飲むと?」
「ううん、冷たいココアが好きなの」
冷えた缶を両手に包みながら必死に涼もうとする姿はやはり可愛らしかった
こればかりは惚れた弱みというものか、彼女のすることすべてがことごとく自分のツボをついてくるように思えてきた
「そういえば千歳くん、せっかくの昼休みなのに私と一緒に自販機に寄り道なんてしてていいの?」
「ん、よかばいよかばい それとも、俺と一緒じゃなんば不満があっと?」
「そんなまさか! 私、千歳くんとお話するの好きだもん うれしいよ
あとね、千歳くんのその方言も好き…、意味が判らない時もあるんだけどねぇ」
「うはぁ、上げて落とすとは、酷か女ばい…」
ひどいのは千歳くんの天パだもんねー
そんな呟きも聞こえたがあえて無視した
何気ない会話の一文ではあったけれど「好き」と二度も口にされては、柄にもなく照れてしまったのだと思う
にやける口元を軽く抑えながら、ごまかすように「今日は買い弁たい、こんままコンビニにでも行きたかね」と呟いた
彼女でも作りなよ、と笑われてしまった
彼女、彼女欲しかー…
今、目の前にが君が彼女になってくれんだろかなんて思ってしまう俺は贅沢なのだろうか
「ふふっ、そろそろ学校戻ってお弁当食べなきゃ、私きっと食べきれないや」
「ジュースはよ飲まんとまずくなるとよ?」
「…いいの」
もう一度、ふわりと笑うと彼女はくるりと踵を返した
その手のひらからコロリとミルクティーの缶ジュースが転がり落ちていった
"あっ…"
それは誰の口から漏れた言葉だったのだろう
俺の口かもしれないし、彼女の口かもしれないし、通りすがりの人の口かもしれない
ジュースを追って駆け出す姿越しに見える、トラックの運転手の口かもしれない
トラックはそのまま彼女を俺の視界から浚っていった
金切り声、金属同士がこすれる音、黒板に爪を立てた時のような不快な音…悲鳴
その音は酷く遠くに感じた癖に、頭の奥に染み付いて離れようとしない
アスファルトにはべっとりと黒い光沢のある…血が彼女の足跡のように続き、車体の影から白い腕がまるで手招きでもするかのように伸びていた
愛しい人の腕にも関わらず俺の両手はガタガタと震えていて、自分の腕を震えごと抑えつけようとぎゅうと握ることで精一杯だった
彼女の腕に触れる余裕すら無かったのだ
ビー、ビー、とやかましく泣き叫ぶ蝉の声と共に熱気を帯びた夏の日差しがアスファルトに反射して視界の端でゆらゆらとゆれた
君の腕も揺れた
この状態で暫く放置していたカゲロウデイズパロディ
続く…、かも…
でも期待はしないで欲しいので完結扱いです